第3話(重複投稿)

 家に帰り、自室で勉強机の上に塾の宿題を開いてやり始めた。


勉強をしていると、時々考える。どこの高校に行くかも決まっていないのにこんなに頑張る必要はあるのだろうか。


翔太は都内の自校作成校を狙うくらい勉強を頑張っていて圭は運動神経がいいのでスポーツ推薦でそれなりにいい高校に進めるだろう。


それに比べて俺は中学時代はテニス部に入り、エースにすらならなかったし委員会などに入って積極的に活動をすることもなかった。将来やりたいことも見つかっていないくせにこれから俺は最低で最悪なことしかやらないのだ。


稲城がどこの学校を目指しているかは知らないけれど俺からの仕打ちによっては受験勉強もままならなくなるかもしれない。


って…今更心配する必要なんてないのか。


16:30過ぎ、突然雨音がして雨が降り出した。洗濯物が干しっぱなしなことに気が付いて俺は慌ててベランダに行き、洗濯物をこんだ。


ふと外の玄関のほうに視線を向けると、なんと父親の昭(あきら)がいた。俺が小4のころに若い女と浮気をして出て行った今は他人同然のあいつがなぜ今更家に来たのか。


すると昭がこちらに顔を向けてきた。堀の深い顔に、太い眉毛。50近くになっても相変わらずモテそうな男の風格を備えている。「旭じゃないか。」昭は傘をたたんで玄関に上ってきていた。


俺は玄関のほうへ行き、ドアを開けて外へ出た。ドアのすぐ近くに昭が立っていた。「旭、背が伸びたな。いやあ、会えてうれしいよ。」へらへらした調子で昭は俺に話しかけてくる。


俺は「何の用?」と冷たく返した。「用って、そんな冷たいことを言うなよ。お前は俺の息子だ。会いに来て当然だろう?」


父親はそう言いながらスマホを取り出して時間を確認した。スマホの背面には再婚相手の女の写真がある。まだ30代前半くらいに見える。その女のおなかには赤ちゃんがいるようだった。


「お前、この家にいて息苦しくないか?咲子はやけに教育熱心だし面倒くさいだろう?」昭は唐突に極端な提案をしてきた。


さすがに俺は驚いてしばらく声が出なかった。


やっと絞り出した言葉は「その女のほうが俺や湊より大事だったから出て行ったんだろう?もう遅いんだよ。」だった。


それだけ言うと俺は家の中に入り、思いっきり鍵をかけた。


外から昭の落胆する声が聞こえてくる。俺はもやもやした気持ちで自室に戻った。


17:30になり、まだ雨は少し降っていたが18:00からの塾に行くために俺は準備をして傘を持って家の外に出た。


ちょうど母親が帰ってきたところだった。「今日は30分だけ早く上がれたから…あれ?もう塾?」車から出てきた母親は買い物袋を手に俺のほうを見ながら言った。


「あ、うん。そういえば…」昭が来たことを言おうかと思ったが面倒くさいことになる予感がしたので「行ってきます」とだけ言って塾へ向かった。


塾には最低レベルのクラスと真ん中、最高レベルのクラスの三つに分かれた教室がある。俺は真ん中クラスの教室に入る。


そのクラスには友達の鳥栖寛也(とすひろや)がいる。鳥栖は市内の他校の中学校に通っていて野球部に所属していたそう。


60分の授業を終え、休み時間に鳥栖と話していたら、たまたま小学校時代の話題が上がり鳥栖が「稲城ってやつお前の中学校にいる?」と聞いてきた。


俺は一瞬ギクッとして「あ、ああ。いるよ」と答えると「そいつさ、小5のころクラスの女子ともめて不登校になってたんだよ。中学のほうはうまくいってるのかなって…」と心配そうな顔をしていた。


俺は「え?仲良かったのか?」と聞くと鳥栖は「まあ、俺そいつ一時期好きだったし。」と頬を赤らめて答えた。


「は?え?好き?」俺は唖然として聞いた。


「普通に好きだったけど?」キョトンとした顔で返されたのでそれ以上なにも言い返すことができなかった。


帰り道、俺は稲城は実はめちゃくちゃ明るかったがそのころのことが原因で今は根暗になってしまったんじゃないかと考えた。


不登校に一回なってしまっていたんじゃ、よく中三になってからきているなと俺は感心した。


実際俺らのせいであいつは嫌な気分になっているというのに。

 

「一学期の登校日もあと三日だ。気を引き締めて終了式も来るように。」担任がいい、号令をして今日も一日が終わる。


帰りの準備中、翔太がやってきて言った。「今日の総合お前ら当たったらおもしろかったのによ」悔しそうに言う。圭もやってきて「そのほうがおもしろいけど旭はさすがに耐えれねーよな」と同情してきた。


圭は同情してくれたが、翔太は「お前らあれ以降全然話してないじゃん?どうすんの?」と突然圧をかけてきた。「どうすんのって…」俺が力なく答えると翔太は「今の状態じゃ夏祭りなんていけないと思うな。」と痛いところをついてくる。


「正直あいつと親密になるなんて俺には無理だよ。おろさせてもらうよ。」俺はもう、これ以上罰ゲームを続けたくなかった。「話しかけたんだし、十分…」


俺が言いかけると翔太は睨みながら「やりたくなら最初から参加するんじゃねえよ。はーあ、お前ってやっぱ面白みに欠けるよなー。面白いこと言わないでただ便乗するだけだし。」と冷酷に言い放った。


圭も「さすがに今更辞めるなんて言うなよ。受験勉強の合間の息抜きみたいなもんだしさ。続けてくれよ。」と軽い調子で言ってきた。


この瞬間、俺の脳裏に「こいつらに捨てられるんじゃないか。」という考えが頭をよぎった。また中一の頃みたいにつまらない毎日を送る羽目に…。


そう考えると恐ろしくなり俺は結局「じゃあ、ジュースもおごれよ」と、三つ目のご褒美を条件に罰ゲームを続行することにした。


しばらく時間がたち、教室内には俺たち三人と稲城、その他数人程度しか残っていなかった。


翔太が小さい声で「あいつ、ぼっちなのになんで早く帰んないんだろ。誰か待ってんのか?」と怪訝な顔をしていた。


すると、稲城は時計を確認して教室から出て行った。「追おうぜ」翔太は荷物も持たずに先に出て行った。


圭は「まじかよ」と言いつつも後を追っていった。俺は遅れて二人の後についていった。


俺たちの教室は三階にあり、稲城は今二階へと降りて行った。そのまま一階までは行かずに二階の廊下を歩き、どこかへ向かう。


「どこ行く気だ?この階には職員室も保健室もねーし。」翔太はばれないくらいの声の大きさでいう。


すると、稲城はあまり生徒が行く機会のない反対側の棟へ向かった。


「あっちって、何室があったっけ?」圭が頭を掻きながら歩いて言った。稲城は一切後ろを振り返ることもなくある教室に入った。


札を見ると…「カウンセリング室」と書いてあった。「は?カウンセリング?」翔太は面白いものでも見つけたというような顔でのぞき込もうとしている。「さすがにやめろ」圭が慌てて肩を掴んで止める。


カウンセリング…。あいつは確か小学生のころ不登校だった時期があるらしいから、納得した。


「これ以上深入りするのはやめよう。」俺は先にその場から離れていった。翔太は「チェッ」と舌打ちをしたものの、渋々ドアの前から離れた。


廊下を歩きながら翔太は「俺たちのことでも相談してんのかな」と不敵に笑いながら言った。センター分けにした髪の毛をいじりながら「もししてたら、容赦しねーよな。」と圭に問いかける。圭は「いやあ、そもそも気づいてなさそうだし大丈夫だろ。」と楽観的。


俺は何も言わずに二人の後ろを歩いている。翔太は「もしチクられたら、誰が責任を取るのか。」とぽつりと言った。俺は「責任って、連帯責任だろ。」とようやく口を開くと圭は「お、俺はたいして言ってねーし。言ってんのは翔太だろ。」と責任逃れをするような発言をした。


翔太は言った。「なんだよそれ。俺はあんまり本人の前で言ってないし。それより、意外と旭もせこいと思うぞ。」突然の投げかけに俺は口ごもり、黙ってしまった。


「いつも俺らが何か言うたびに笑ってんじゃん。意外とずるいんだよ。そういうのがね。」振り返りながら翔太は「ま、嘘告白に成功したらずるくないって認めてやる。この話はここまでだ。今日は勉強どうすっか…」と話題を変えた。


俺は内心自分はあまり責任が重いほうではないと感じていたため冷や汗をかいた。大抵稲城の話題を出し始めるのは翔太や圭のどちらかで俺はいつもただ賛同していただけ。

そこまで悪質ではないと自分に言い聞かせた。


「次、稲城に話しかける機会あるのかな…」俺がぽつりと言葉をこぼすと圭はにやにやしながら「やっぱり一緒に帰る以外ねーと思う。一回やってみてほしい。」と提案をしてきた。


一緒に帰る…。もし知り合いに見られたらと思うと気が気ではない。


そんな話をしながら昇降口から外へ出た。校門へ向かう途中、テニスコートがある。後輩たちが練習をしていた。


そこのコートは女子が使っていて、その中にひときわ目立つ後輩がいる。


矢板陽葵(やいたひまり)だ。矢板は俺の中学校で密かに噂されている美人だ。


本人は分け隔てなくいろんな人に話しかけるので好感度も高い。いつもポニーテールで毛先のほうを少しカールさせて薄い化粧をしている。目はぱっちり二重で鼻も高く、見ているだけでも十分なくらい。


俺は中二のころ、矢板と何回か一緒に帰ったことがある。少しだけ仲が良かったが中三になってからはほとんど話せていない。


テニスコートの前を通り過ぎる瞬間、突然矢板が「武蔵せんぱーい!」と言って声をかけてきた。俺は稲城に対してとは違う意味のほうでドキッとした。


きれいな瞳に見つめられる。「お、おお。矢板か。頑張ってるか?」とどもりながら話しかけた。「はい!すっごく頑張ってます!先輩も受験勉強、頑張ってくださいね!」矢板はそれだけ言うと、練習を再開した。


体操着の短パンからはきれいで長い脚が伸びている。背はそんなに高いほうではないがスタイルがとてもいい。


「おい、お前今度あの子紹介しろよ」と言いながら翔太が矢板に目が釘付けになっていた。俺は「人間、やっぱ身なりって大事だよな。」とつぶやいた。


翔太は「ああね。どこかの誰かさんは…」と言いかけ、矢板と目が合い、頬を赤らめて慌てて目をそらした。矢板が友人と「かわいいあの人」と騒ぐ声が聞こえる。


翔太は「い、行くぞ」と照れ隠しをしながら先にどんどん行ってしまった。「ちょっ、まだみてーのにぃ」圭も後を追い、俺は最後に一度振り返って矢板を見てから二人の後に続いた。


ふと頭の中に稲城の姿が浮かんだ。矢板とは正反対の地味な容姿。あまりスタイルもよくないし、顔もこれといった特徴はない。眼鏡をしているだけでブスではなさそうだが可愛いわけでもないだろう。目のほうは前髪が重くてあまりわからない。


今度見れたら見てやろうと思った。水泳の授業は男女別で受けるので今まで眼鏡なしの顔を見たことがない。今度外す瞬間を見て品定めしようと心に決めて俺は二人の横に並んで歩き始めた。

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