第十三話:俺達の誓い
統合失調症。それが、18歳だった俺に診断された病名だった。それがもたらした症状は、決して甘いものではなかった。
「五月蝿い! こっち来るな!」
「颯哉君、落ち着いて。ここには僕と颯哉君以外いないよ」
俺の担当医は、院長先生だった。いつも俺を宥めてくれて、いつも優しく接してくれた。まるで、泣いている子供を落ち着かせる様に。
「さっきから知らない人が話しかけきて五月蝿い……」
「大丈夫だよ。落ち着いて、深呼吸しようね」
毎日、そんな事が続いていた。院長先生のお陰で、俺は落ち着くことが出来ていたけど、その落ち着きの側にはいつも希死念慮が付いて周っていた。
(死にたい……死にたくて堪らない。でも、死んだら院長先生が悲しむかもしれない。それでも……死にたい)
落ち着こう。落ち着こう。そう思っても、気持ちが抑えられない。気づけば、屋上のフェンスに足を掛けていることがある。その度に、急いで病室に戻る。
何をしていたのかと聞かれるたび、散歩と答える。段々と疑われている事にも気づいている。でも、院長先生は疑っていないふりをする。気づいているからこそ、俺は苦しくなる。
(もう、無理だな……)
死にたがっていた日々からもおさらばだ。入院してから何日経ったか、分からなくなっていたある日、俺は死ぬ事を決めた。
なのに、彼女に会ってしまったから、俺は死ねなくなった。
「君、誰?」
「私は、詠美。月野詠美だよ。君は?」
「俺は、颯哉……灰原、颯哉」
聞くと、彼女は鬱病で彼女も今日死ぬ事を決めて来たらしい。
「颯哉君は……何で、死ぬの?」
「苦しい、から」
「……そうなんだ」
暫く、二人で黙り込んだ。どっちから言ったのかは、覚えていない。ただ、この言葉だけは覚えている。空は暗く、星が輝いていた事は、覚えている。
「二人で、生きよう。約束、ね。死ぬ時は、絶対に二人でね」
二人で居る。二人で過ごす。二人で生きて、二人で死ぬ。そう決めた。なのに、身勝手な奴のせいで、ほんの少しでも離れる事になった。
病院は焼け落ちた。自分の実力を他人のせいだと決め付ける身勝手な医者のせいで。俺と詠美は別々の病院に移る事になったんだ。
これは、二人同時に言ったのを覚えている。約束したのを、覚えている。
「また、会おう。この病院で」
約束は誓いだ。破ったら、指切りだ。俺達にとって約束は、結婚式で指輪を通すことと同じ。持っていなくても、約束をすれば出来る。
きらきら光るお星様、見ていますか。俺達は共に生き続けます。人生を捧げます。心臓を差し出す事を、誓います。
赤く染まった空に輝く星々に、俺達は祈り、誓った。永遠に。
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