第十話:再会①

 次の日、私は病室に遊びにきた直人君と遊んでいた。直人君は先程から電車の本を読んでいる。私はふと思った疑問を先生に尋ねた。

 

「先生、直人君って何歳?」

 

「えっと、十三歳だな」

 

 (え、十三歳?)


 それなら、私よりも上だ。でも、あんなに幼稚園の様な行動をしていて、少し前まで話せなかったのに。

 

「でも直人君、あんなに子供みたいな感じだけど」

 

「そう言う病気なんだよ。年齢は十三歳だけど精神年齢が低くなってて三分のニになってる。つまりは八歳ぐらいだ。だから子供らしい言動をするんだよ。言葉が話せなかったのは精神的ショックのせいだ」

 

 そんな、ショックで話せなくなることもあるのか。知らなかった。

 

「だから、愁さんが無口野郎って言ってたのに怒ってたんだ」

 

「まぁ、そうだ」

 

「ショックって、どんな? 家庭の問題で精神的にってこと?」

 

「そうだな。家庭だな。竹中さんの病気はADHDって言ってな。多動性とか、衝動性が出る。まぁ、人によっては不注意だな。そういう病気で、それを知った親が普通じゃない子は要らないって言って病院に押し付けていったんだ」

 

 私は背筋が凍る様な感覚を感じた。親が、そんな事をするなんて信じられなかった。

 

「その時、直人君何歳だったの?」

 

「確か、まだ9歳とかだったよ。だから、精神年齢的には6歳だった。それでも言われてる言葉は理解できてたみたいで、その頃にはもううまく言葉も出てなかった。リストカットもあったしな」

 

 流石の私もリストカットは知っている。そこまで直人君は追い詰められていたんだ。同情と同時に少し怖さを感じた。

 

 それをしないと生きている心地がしないのか、それともそれを無意識にしているのか、分からないけれど、その精神が怖かった。

 

 理解出来ないから。私はいつも親がお見舞いに来ない事があるけどそこまでしないといけないほど精神は荒れていない。だから分からない。

 

「花乃、どうした?」

 

 その声に私はハッとした。

 

「え、あっ、えっと……。あの、何か急に怖くなって」

 

「何で」

 

 先生は射る様な視線を向けてきた。それに少しゾッとしながらも私は答える。

 

「何だか、分からないけど……その、考えが理解出来ないっていうか、関わりづらくなったっていうか」

 

「友達なんだろ?」

 

「そうだけど、その、怖くて」

 

 そんなことを話していると直人君が私の腕を引っ張ってきた。もう本を読み終わったらしい。

 

「あ、えっと」

 

「遊ぼ」

 

 そう言われた。でも、どう答えればいいか分からない。迷っていると先生が声を掛けた。

 

「竹中さん、ちょっと待っててくれる? まだ本あるから読んでて」

 

 そう言って先生は私の肩を掴んで病室の隅に移動した。

 

「花乃、頼む。竹中さんとは仲良くしてやってくれないか」

 

「そんなに、竹中さんが好きなの?」

 

「好きっていうか、苦しんでほしくないだけだ」

 

「何で? 直人君も、花乃より歳は上だけど子供ではあるのに、何でそんなに気にするの?」

 

「あの人は……子供じゃない。そりゃ精神年齢で言えばまだまだ子供とも言える年齢だ。でも違う。ちゃんと成長してる。……そういう病気なだけで」

 

 先生は、目を伏せていった。先生の子供の基準がわからない。軽く私は混乱した。先生は本気だ。本気で言っている。それがわかる。

 

「分かった。仲良くする」

 

「本当か?」

 

 凄い剣幕で言われた。

 

「う、うん」

 

「ありがとう」

 

 そう言われた。私は少し照れているのを隠しながら直人君に近づいた。

 

「ね、ねぇ直人君。何して遊びたい?」

 

「お外で虫集める」


 その言葉で私達は病院の中庭に出た。暫くダンゴムシや天道虫、蟻などを集めた。直人君はとても楽しそうでさっきよりも笑顔が増えている。


 それから暫くしてある女性がやって来た。その女性は私に近づいて来た。

 そしてその女性は突然私に向かって平手打ちをしようとした。私が避けようとした直前、先生が彼女の手を防いだ。


「何か用があるのなら、俺にどうぞ」


「あんた、誰」


「彼女の担当医、灰原颯哉です」


 彼女の表情が一瞬揺らいだ様に見えた。まるで、ずっと会っていなかった人に会った時の様な。でもそれはすぐに消えた。そして、彼女は言った。


「私は、彼女の母親です。彼女をこちらに渡してください」

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