第八話:事実②
先生は恵美子さんをミーティング室に連れて行った。
「そちらの席に座って下さい」
「……灰原先生、証拠というのは?」
恵美子さんは座るなりそう言った。
「これを見て下さい」
そう言って先生はある紙を見せた。私はそれを見て直ぐに何か分かった。
「これは?」
でも、恵美子さんは何か分からなかったらしく、何かを問うた。
「精神科医試験の答案です。誰のものかはわかりますよね?」
「何故貴方がこれを? どうして……その回答は息子のものと同じ……」
「……貴方、何も知らないんですね」
先生は冷たい目で恵美子さんを見た。そして大きく、深く溜め息を吐いた。
私は少しでも役に立とうと恵美子さんに教えることにした。
「高橋先生が先生を小児科に落とすために、不正をしたんです。その答案用紙はきっと先生の物です」
「家の息子がそんなことする訳」
する訳がないと言おうとしたのだろうか。言い切る前に先生が被せるように言った。
「したから俺がこれを持っているんです。試験の答案は審査員に渡した後、コピーをされ、コピー前の物は直ぐに返されます。そしてこれは見て分かる通りコピー前の答案です。……この意味分かりますか?」
理解が出来ないという様子の恵美子さんに恐らくコピー後であろう先生の答案用紙を出した。
コピー前の先生の答案用紙とコピー後では解答が違っている。しかし名前は両方先生のものだ。
「嘘よ、そんな訳……」
「俺は……精神科にいた頃、医師内で実力No.1でした。そして、高橋医師は最底辺のNo.32。これが去年の成績。それが、今年は実力ランキングが入れ替わっている。僅か一年でこんなことが起こると思いますか? ……無いですよね。不正でもしない限り」
先生は詰めるような口調でそう言った。
「先生はずっと、本当のことを言ってます」
「不正なんて……あの子が……だってあの子は真面目に今まで…」
先生が何か言おうとした時、突然部屋の扉が勢いよく開いた。そこにいたのは私を連れ去ろうとしていた男性と女性の2人だった。
「おいババァ、良い加減認めろよ」
「そうよ。大人気ないわよ。あんたが認めたくても、いずれ分かるんだから」
彼らはそう言った。なぜ彼らがここにいるのだろう。先生も少し驚いた表情をしていた。
「よう小児科医さん。昨日振りだな」
「……何故ここに?」
「騒ぎ聞いてこっち来た」
「それは、何故」
「あんたには辞めてほしくなかったから。親父の馬鹿みたいな企みのせいで辞めてもらっちゃ困るんでね」
そう言って男性は思い出したように言った。
「そういや名前聞いてなかった。俺は高橋愁。で、妹の咲だ」
「灰原颯太です。隣のが風見花乃と竹中直人です」
「おぉ、昨日のメンツ揃ってるんだな。まぁ何か余計なババァもいるけど」
そう言うと愁さんは恵美子さんを睨んだ。
「愁ちゃん、何でそんな医者の肩を持つの? こいつは貴方の親を悪人扱いしてるのよ?」
「悪人は親父だろ。この先生は潔白だよ」
「私らは、あんたが何言っても灰原先生を信じる」
咲さんも追撃するように言った。
恵美子さんは信じられないと言う様子で彼らを見た。しかしやがて目を伏せた。
それを見て先生は言った。
「良い加減現実を見たらどうですか? 貴方が幾ら信じたって彼が不正をしたという事実は変わりませんよ。なぁ、花乃」
「は、はい」
「今まで彼奴にやられた事覚えてるよな? 言ってやれ」
「先生を、バカにして……私の点滴も、無理やりで、怖かったです。毎日、毎日……怖くて逃げ出したくなるくらい……」
「分かるでしょう? 彼は医師としてあるまじき行為をしてきている。患者を守り、救う役割を持つこの場にいるべき者では無い。医師としての役割を果たすことのできない。彼が医師として働くなど、言語道断です!」
「花乃、高橋先生に謝って欲しいです」
「……昔俺が精神科にいた頃の患者である竹中直人から話を聞いたところ、高橋医師から暴力を受けていたそうです。……彼は精神科医としても、あるまじき行為をしています。余罪が多いようですね」
「うわ、親父そんなことしてたの?」
愁さんが呆れたような声をしていった。
「呆れるわ。親父最低だね。私らの親とは思えない」
「他の患者さんも被害に……そんな……」
「……竹中さんは、俺の人生に光をくれた人です。誠心誠意誤ってもらいます。賠償金も付けさせてもらいますよ。良いですね」
「……はい……申し訳……ありませんでした」
恵美子さんがそう力なく言う。けれど先生は容赦なく言葉を投げかけた。
「謝るべき相手は俺ではなく、被害を受けた患者です」
「申し訳ありません……」
「……本当のことを、分かってくれて……良かったです」
「じゃあ、戻りましょうか」
「……はい」
それを見て愁さんと咲さんは満足気に微笑んだ。
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