第八話:事実①
高橋先生の母親が病室に入って来た。
「貴方が小児科医の灰原先生? 私、高橋一彦の高橋恵美子です」
そう言って恵美子さんは会釈をした。それに先生は礼をして名刺を渡した。
「何か、御用でしょうか」
「家の息子から聞きました。貴方が患者を傷つけているとか」
「証拠は?」
「息子の言葉ですよ」
「疑わないんですね……、随分と信用しているようだ」
先生がそういうと、恵美子さんは私を見た。その視線が私を刺すように見えて、私は先生の後ろに隠れた。
「ねぇ、そこの君」
「は、はい、何ですか……?」
「貴方、先生に痛いことされたことある?」
「い、いえ、そんな事、ないです。寧ろ、先生は優しくて……」
「先生に言わされてるだけじゃない?」
「違います! 先生より、高橋先生の方が……」
「あの子が、なぁに?」
恵美子さんは詰め寄りながら言ってきた。私は少しゾッとしながらも言う。
「高橋先生は、先生を蹴落として、試験の結果も、無理矢理変えて……」
「嘘よね? 言わされてるだけよね、ねぇ?」
恵美子さんは更に詰め寄ってくる。私は後退りをしながら言う。
「嘘じゃないです。花乃、先生が言ってるの聞いた……」
「嘘、そんなの嘘よ。あの子がそんなことする訳ない!」
そういうと同時に私は壁に飛ばされた。頭が痛い。触れると手のひらに血がついた。私は殴られたんだと理解した。
「本当の事言いなさいよ! 殴られたいの?」
私は壁に押し付けられた。その手に段々と力が込められているのを感じた。
「せ、先生は……誰も傷つけてません……」
「嘘でしょう?」
「う、嘘じゃ、ないです」
また掴まれている手の力が強くなったのを感じて私は思わず声を出した。すると直人君が恵美子さんを引き離そうと引っ張った。
「直人君……」
でも、直人君は振り払われてしまった。その時、先生が無理矢理体を動かして私達を無理やり引き離した。
「せ、先生……?」
「他者を脅して行為を強要するのは強要罪に当たりますが……どうしますか?」
冷たい無感情な声でそう言う先生は少し怖く見えて私は縮こまった。
「……何よ、貴方の患者が私の息子を罪人にしようとしたのよ! ちゃんと正当な理由で」
「自分の子を信じるだけで無く真実を知ろうとすることも大切だと思いますが? 彼女は嘘を吐いていません。先程彼女が言った通り証拠もあります。一度それを見てからご意見を言ってはどうですか?」
先生が被せるようにいうと恵美子さんは黙り込んだ。そして、恵美子さんが逃げようとした時、先生が腕を掴んで止めた。
「こちらの話はまだ終わっていません。少しあちらで話しましょうか。あなたの息子がしたことも含めて、ね」
「分かったわよ」
先生が行こうとすると詠美先生が引き留めた。
「先生、まだ体は治ってませんよ」
「傷は塞がってるから平気だ」
「でも、さっき全身痛いって言ってたじゃないですか」
「そうだけど、今回は重大な話だからな。後回しには出来ない」
「なら、せめて無茶はしないで下さい。無理矢理動いたら痛いでしょう?」
「分かったよ」
先生は病室を出ようとする。私はそれを引き留めた。
「何だ」
「先生、花乃も行っていい?」
「駄目だ」
即答された。けれど私が食い下がった。
「何で?」
「流石に患者を巻き込めない」
「でも、花乃もちょっとだけど高橋先生といたし、何されたかとか覚えてるから先生の役に立てるかも……」
「……。分かった。来てもいいけど、俺から離れるなよ」
「うん! わかった」
私がそういうと直人君が先生の白衣の袖を引っ張った。
「せんせ、僕も行く」
「え、いや、竹中さんは……。……いや、うん。来てもいいけど、離れないでね」
そう言って先生は直人君の手を引いた。
(ちゃんと言わなきゃ、きっとあの人は分からない。本当のことを教えてあげなきゃ)
私は勇気を出して先生の後について行った。
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