第三章

第七話:先生の命は

「先生、嫌だよ。心拍数が……お願い、上がってきて……」

 

 私達は病室で、先生の寝ているベットを囲んでいた。先生は、目を覚さない。先程から心拍数が下がって、上がらない。

 

 直人君は泣き出した。それを見ると私も泣きたくなるが、我慢した。

 

「泣かないで、花乃たちが強くないと、先生悲しむよ……」

 

「せんせ、戻って来てよせんせ! 約束したじゃん! 僕を幸せにしてくれるんでしょ? せんせが死んだら僕幸せになれないよ!」

 

 直人君は先生に抱きついて言った。

 

「先生は絶対戻ってくるよ。だって、花乃たちの大切な先生だもん」

 

 そうして暫くすると、あっと言う詠美先生の声がした。

 

「心拍数が、上がってる!」

 

「え、本当!?」

 

 私は先生に駆け寄った。

 

「先生、お願い。もう少しだけ花乃たちと一緒にいてね」

 

「颯哉君、早く戻って来てよ……患者が二人も残ってるよ? まだ死ねないでしょ」

 

 詠美先生は涙を流してそう言った。私達は祈り続けた。先生が戻ることを。また笑い合えることを。

 

 どれだけだっただろう。体感では数時間も経ったように感じられた。先生は目を覚ました。ゆっくりと目を開けて目の前を見た。

 

「先生! よかった、本当によかった……」

 

「せんせ〜!」

 

 直人君は先生に抱きついた。

 

「灰原先生、おかえりなさい」

 

 詠美先生は涙を拭いながら言った。

 

「…………心配、かけたな」

 

「……でも、先生が戻ってきてくれて本当に嬉しい」

 

 先生は動こうとした。けれどその白衣の下には包帯が巻かれている。傷んだのか先生は顔を顰めた。

 

「っ……痛ぇ」

 

「先生、大丈夫!?」

 

「全身痛ぇ」

 

 先生は顔を顰めながら言った。

 

「灰原先生、痛み止め持ってくるので待ってて下さい」

 

「先生が生きててくれて本当に良かった……包帯は痛そうだけど」

 

「全く、やり過ぎですよ。身体中36個も切り傷があったんですから」

 

 詠美先生が痛み止めを持ってきながら呆れた様に言った。

 

「先生、無茶しすぎだよ」

 

「高橋先生も頭に血が昇ってたみたいですからね。高橋先生曰く、『灰原を精神的に苦しめてその気にさせるために患者を狙った』らしく」

 

「そんな、花乃たちを人質にしようとしたの?     

 怖い……」

 

「やっぱクズだな」

 

 空気が一変してピリピリとする。先生から威圧感を感じて私は縮こまった。

 

「や、やめて……怖いよ先生」

 

「次何かしたら医師免許剥奪されますよ」

 

 詠美先生がそういうと先生は表情を歪めた。

 

「そ、それは……」

 

「先生、他にも大切なことあるでしょ? 花乃達の命とか」

 

「そうだな。……俺と彼奴以外に怪我人は?」

 

「居ないよ。先生と高橋先生だけ。後、高橋先生は警察に捕まったよ……」

 

「捕まった?」

 

「うん。でも外に家族が……」

 

「はぁ? 家族?」

 

「高橋先生が、家族に『灰原を追い詰めろ』って……命令してたみたい」

 

「……追い詰めるって、どうやって」

 

 先生は不思議そうな目をした。

 

「口コミに先生の悪い噂を広めたりしてるみたい」

 

 口コミには先生が患者に暴力をするだとか、先生は元ヤンだとか悪い噂でいっぱいだった。

 

「悪い噂、ねぇ」

 

「まぁ、医師の立場からしたら面倒な噂だな」

 

「でも、本当は高橋先生の方がもっと怖いことしてたよ……?」

 

「家族な訳だしその事実を言っても信用しねぇだろうな」

 

「うん、家族だから信じないよね。でも証拠が……」

 

「捏造だとか言って信じねぇよ」

 

「高橋先生のスマホに、全部残ってるのんじゃ?」

 

「そうだけど。今時合成とかだって出来る。そう言うもんだって信じて疑ったりしねぇと思う」

 

「じゃあ花乃が証言する」

 

 そう私が言うと先生は息を吸って言った。

 

「お前が証言する必要はない。俺が何とかする。こんな時まで患者を巻き込む訳にはいかねぇよ」

 

「でも、花乃、先生のこと心配で……先生がいなかったら入院してるのも辛くて……」

 

「変わったな」

 

 先生は私を見て言った。

 

「うん。先生が優しくしてくれるから、前より怖くなくなった」

 

 そう話をしていると病室に看護師さんが入ってきて詠美先生に何かを伝えた。

 

「灰原先生、高橋先生のご家族が面会をしたいと……」

 

「通せ」

 

 先生はそう言った。先生は何処か覚悟を決めたような目をしている。その目を見ると私も頑張れる。

 やっぱり先生はいい先生だ。そう思えた。

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