第四話:戦争

「は、灰原先生、止めて下さい! それ以上やったら高橋先生が死んじゃいます!」

 

「灰原てめぇ、止めろっつってんだろうが!」

 

「うるせぇ黙れ! てめぇこそいい加減俺に嫉妬すんのやめろや。飲み物に薬なんか混ぜやがって患者殺す気か!」

 

 そんな声が廊下から聞こえた。私は廊下に出て力一杯叫んだ。

 

「先生! やめて!」

 

 廊下では先生が高橋先生を押し倒し首を絞めていた。看護師さん達は必死に先生と高橋を引き離そうとしていた。

 

「花乃ちゃん……」

 

「花乃……部屋から出るなって言っただろ」

 

 私は先生の腕にしがみついて力一杯引っ張って先生の手を離そうとした。

 

 先生は黙り込んだ。しかし高橋先生の首を絞める力は全く弱まらず、寧ろ強まっているのを感じた。

 

「先生、花乃が、花乃が悪いの?」

 

「……何でそう思うんだ」

 

「だって、先生がいつもこんなに怒るの、花乃のせいだから」

 

「……違う」

 

 私は先生の手に触れた。先生の手は酷く冷たかった。

 

「先生の手、冷たい。私が温めてあげる……」

 

「花乃、良いから……体調治ってないだろ?倒れたら大変じゃないか」

 

「うん……でも先生も一緒に来て? 一人は嫌だよ。怖いよ……」

 

「看護師がいるだろ?」

 

「先生が良いの。来て?」

 

 私がそう言うと先生の手が緩んだ。その一瞬高橋先生が好機と見たのか先生を押し倒し首を絞めた。

 

「っクソッ……」

 

「いやぁっ! 先生!」

 

 必死に高橋に体当たりをする。しかし小柄で小さい私には力は無い。高橋先生にそんなものは効かなかった。

 先生は高橋先生を蹴り飛ばして押し倒し返した。

 

「っ花乃……部屋戻ってろ」

 

「だめ! ……詠美先生!」

 

 詠美先生達は先生と高橋先生を引き離そうとするけれど二人の力が強すぎて中々引き離せない。

 

「もうやめて、二人とも死んじゃう! お願い、先生!」

 

 泣き叫んでも私の声は2人には届かない。高橋先生はメスを出して先生に切り掛かる。先生はカルテで防ぐ。更に先生はカルテで高橋先生を殴る。高橋が血を流しふらついたその隙を突いて先生はメスを奪い高橋の肩を刺す。壁や床に血が飛び散り廊下はたちまち血に染まっていく。

 

 命を守る場所が命を奪い合う場所へと変わっていく。あぁ、先生の怒りはこんなに深かったんだ。私が思ってるよりも強かったんだ。

 

 私は何も出来ない。目を逸らすしかない。

 

「血……血が……先生、もうやめてよ……」

 

 私がそんな声を出した時、大声が響いた。

 

「二人とも! 止めなさい!」

 

 院長先生だ。院長先生は二人に無理矢理薬を飲ませると二人は倒れ込む。それを看護師たちは支えた。2人は病室に運ばれていく。

 

 私はそれを見て安堵した。これでもう大丈夫だ。そう思うと今までの平和が酷く大切なもののように思えた。

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