第三話:嵐前の静けさ
次の日、私は窓際で外を眺めていた。すると廊下から足音が聞こえた。先生だ。
「 あ! 先生だ!」
私はベッドの方へ駆け寄った。
「今日は点滴無い?」
「3日に一回だからない。適当に遊んでろ」
先生はそう言って荷物を置いた。
「なんか忘れてる気するな……」
「何忘れたの?」
先生は腕を組んで考えている。それを私はドキドキしながら見つめた。
「あ、飲み物持って来んの忘れた」
数分経って、先生が呟いた。
「飲み物? 無いと駄目なの?」
「最近暑いだろ。部屋の中でも熱中症にはなるし、無いと駄目だ。持ってくるから待ってろよ」
「先生、ありがとう! 待ってるね。でも、早く戻ってきてね?」
「あぁ。持ってくるだけだから、早めに戻るよ」
先生はそう言って病室を出た。
「早く帰ってきてほしいなぁ。寂しい……」
私が呟いたその時、病室の扉がノックされた。私がビクッと震えて出られずにいると扉が開けられた。
「久々だね〜花乃ちゃん」
そこにいたのは高橋先生だった。
「た、高橋先生? どうして、ここに?」
「様子を見に来ただけだよ〜。ねぇ、灰原は?」
「せ、先生は……灰原先生は今、飲み物を取りに……」
「へぇ、暑いもんね〜」
「高橋先生……本当に様子を見に来ただけですか? 本当はまた、殴りにでも来たんじゃないですか?」
「……あ〜、覚えてたんだ」
私は、本当は高橋先生が嫌いだ。昨日、先生には高橋先生の方が良かったと言ったけれど、それもある意味本当だ。
先生はいつも怖い。怖い声だし怖い顔だし、他の先生に比べたら優しくない。それが怖い。
でも高橋先生は私が点滴をしない時に殴ってくる。私が我慢して点滴をしてる時でも気分と言って殴ってくる。高橋先生はそこが怖い。
でも高橋先生は灰原先生と違って優しい口調だ。その点では高橋先生の方がいい。
「今日は殴りにした訳じゃないよ。本当だよ。様子を見に来ただ〜け」
「……」
「暑いから、大丈夫かなって。熱中症には気をつけないとでしょ? はい、これ」
高橋先生はお茶を渡して来た。緑茶みたいだ。開けられてないみたいだけど、少し怖い。
「え、い、いや……要りません。灰原先生、飲み物持って来てくれるし……」
「いやいや、あげるよ。はい」
高橋先生は無理矢理渡してくる。途端に恐怖を感じた。やっぱり何かおかしい。
「やめて! 先生、早く戻ってきて!」
私は大きな声で言った。すると高橋先生は舌打ちをしてお茶を投げて病室を去った。
「っ!? 高橋?」
高橋先生と入れ替わりに先生が戻って来た。扉の前で駆け足で逃げていく高橋先生をひらりとかわして病室に入ってきた。
「先生!」
「花乃、どうした? 彼奴になんかされたか!?」
先生は焦った様子で尋ねてきた。先生は息も切れてて額から汗も流れている。急いで来てくれたみたいだ。私は何だか嬉しくなった。
「あの、お茶……無理矢理渡されて」
「……飲んでないよな?」
「うん、飲んでない」
「お茶って、これか」
先生は床に転がっているお茶を拾い上げた。
「うん、それ」
「ちょっと預かっといて良いか?」
「うん、でも先生大丈夫?」
「何で?」
「だって先生の手が震えてるよ……?」
「気にするな。それより、花乃は本当に大丈夫か?」
「花乃なら平気だよ。先生の方が心配だよ。さっきから怖い顔してるよ?」
「大声したから何かと思って来たら……彼奴がいたから」
「本当に嫌いなんだね」
「当たり前だ」
そう言って先生はお茶を少し飲んだ。
「せ、先生! 平気なの?」
「……ちょっと待ってろ」
そう言って先生はまた病室を出た。数分で戻って来て先生は言った。
「あれ、睡眠薬が混ぜられてた」
「え、わかるの?」
「調べて来た」
「調べられるんだ……」
先生は低い声で呟いた。
「クソ野郎がよ……」
「せ、先生?」
「ちょっと待ってろ」
「え、?」
「絶対部屋から出るなよ。看護師呼んでおくから待ってろ」
「あ、うん」
先生はまた病室を出て行ってしまった。何だか空気がピリピリしていた。大丈夫だろうか。
「花乃ちゃん、大丈夫?」
「あ、詠美先生」
そう声を掛けて来たのは看護師の月野詠美先生だ。
「ごめんね、花乃のせいで」
「ううん、大丈夫だよ」
その時、大きな音が廊下から響く。
「な、何?」
「ねぇ、灰原先生、出る時何か言ってた?」
詠美先生は何を知らないみたいだ。先生に何も伝えられずに呼ばれたみたいだ。
「え、えっと、高橋先生のこと怒ってて絶対部屋から出るなって」
「え? ま、待って、高橋先生と灰原先生って凄い仲悪いよね? 何なら目を合わせたぐらいで喧嘩し始めるぐらいだよね?」
「え、そんなに……」
「あの人たち……まさか、……」
私達は言葉を失って、動けなくなった。さっきあんなに大きな音がしたのに今は静かだ。これは、嵐前の静けさだろうか。
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