第一話:先生と高橋先生②

 俺――灰原颯哉は天命病院に勤めている。この病院に勤めてから三年。そこそこの歴がある。

 

 この病院の理念は患者第一。当たり前だが、大事なことだ。患者第一故に、医師も高レベルの者しか受け付けない。

 

 いつでも高レベルの医師を配置する為に、毎年医師全員に向けての試験がある。毎年初めに志望の科の試験を行い、院長からの合格を受け、初めて医師として働ける。

 

 毎年精神科は志望者が多い。だから、毎回定員がオーバーしてしまう。それに対して小児科は人気が無い。だから精神科で合格が貰えなかった者は小児科に落とされる。

 

 この病院ではそんなサイクルがあった。志望の科に入れて歓喜する者、不合格を受けて絶望する者。どちらも半々だった。

 

 俺は精神科希望で、毎年試験を受けた。その試験では俺は成績トップ。精神科内でNo.1の称号を持っていた。それに対して俺の同期であり、同じく精神科医希望の高橋一彦はギリギリ精神科医に入れるが成績最下位のNo.32だった。

 

 俺はいつも彼には呆れていた。そして高橋はいつも俺に嫉妬していた。それに限界が来たのか彼奴は遂にやった。3年目の試験で、彼奴は不正をした。

 

 試験開始の合図で皆一斉に問題用紙を開く。俺は予習、復習を繰り返していたことで問題をすらすらと解ける。だから時間が余る。何度も見直して間違いがないことを確かめた。大丈夫だと確信した。

 

 試験終了後、監督に答案用紙を渡す。答案はその場でコピーをされて、コピー元だけ返される。毎年その流れだ。その時には何も異変はなかった。恐らくその後だろう。

 

 採点がされてあるコピー後の答案用紙の名前は、俺の名前だった。違うのは解答だ。全部違った。筆跡も、文章も何もかも違う。俺の物とは違う解答用紙が返された。横を通った高橋の解答用紙を見た。それは、俺の物だった。書かれている解答も、筆跡も俺の物だった。

 

 直ぐに訴えた。しかし返ってきた言葉は、俺の予想とは違った。

 

「コピー元に不正をしたんじゃないか? コピー元は鉛筆で書かれているから消せるし、それで解答を書き換えたんだろ? 機械のせいにして合格しようなんて考えるんじゃないよ。そんな人が医者なろうなんて、言語道断さ。出て行ってくれ」

 

 俺は絶望した。監督の言葉が胸に刺さって抜けなかった。高橋は、頭は悪いが機械に関しては彼奴の方が上手だ。コピーのデータの名前を入れ替えたんだろう。恐らくそうだ。

 

 俺が小児科医なんて、考えられない。そもそも俺は子供が嫌いなんだ。俺も、患者も嫌な思いをするだろうから行きたくなかったのに、小児科に行けと院長に言われたなら行くしかない。俺は精神科でしか力を出せないのに。

 

 目の前が暗くなっていく。未来に希望が持てなくなっていく。感じたくない思いが胸に広がっていく。その日、彼奴に対する殺意で、胸が焦がれ続けた。

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