星降る夜に

闇音鬱

第一章

第一話:先生と高橋先生①

「先生あっち行け……!」

 

 私――風見花乃は小声で言いながら病院の廊下を走る。何故そんな事をしているかと言うと、「あれ」が待っているから。

 

「はい、お疲れ」

 

 その声とともに腕を掴まれた。背後を見上げると私の担当医――灰原颯哉先生が立っていた。

 

「ひぃ……!」

 

 私は手足を動かして逃げようとする。それでも先生は強い力で私の腕を掴んだ。

 

「暴れんな!」

 

 怒鳴られて私はビクッと震えた。

 

「戻るぞ」

 

「嫌だ!」

 

「お前死ぬぞ」

 

 深く溜息を吐いてそう言われた。

 

 (死ぬ? 私が?)

 

「へ?」

 

「点滴しねぇと死ぬ。理解出来る?」

 

「でも怖い!」

 

 私がそう言うと面倒そうな顔をされた。冷たい、氷の様な目で。

 

「何が」

 

「……点滴が」

 

 そう、私は点滴が怖い。針刺す時痛いし怖いし泣きそうになる。でも、それ以上に先生が怖い。なんかいつも怒ってるし声も怖い。

 

「死にてぇならやんなければ?」

 

 そして冷たい。優しく無い。何で担当医がこの人になったんだろう。前の優しい高橋先生が良かった。

 

「先生より高橋先生が良かった……」

 

 そう呟くと私の腕を掴んでいる先生の手に力が篭っていくのが分かった。

 

「痛っ……」

 

 痛くて思わず声が出る。

 

「せ、先生……痛い」

 

「黙れ。早く来い」

 

 そう言われて私は先生に無理矢理引っ張られて病室へ戻された。

 

「先生……」

 

「何だ」

 

「先生って高橋先生と何かあったの?」

 

「その話は後だ」

 

「点滴したら教えてくれる?」

 

「逃げなけりゃな」

 

「うん……逃げない」

 

 私はそう言う。本当は怖いけれど先生と高橋先生に何かあったのか知りたいから、頑張る事にした。

 

 点滴の針を刺される寸前、私は途端に怖くなって思わず動いてしまった。先生は咄嗟に針を上げた。

 

「っぶね……」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 先生は私を睨んだが何も言わなかった。二回目は少し震えながらだったけれど点滴をする事が出来た。

 

「はい終了」

 

「や、やっと終わった」

 

「お前が暴れなけりゃもっと早く終わってたけどな」

 

 先生は面倒そうに言った。

 

「怖いんだもん」

 

「こっちだって同じだ。お前が暴れるからミスんねぇか怖ぇよ」

 

 先生は乱暴に言った。いつもそうだ。先生は優しく言ってくれなんかしない。いつも低い怖い声で、乱暴な言い方なんだ。

 

「怖いものは怖いもん。早く退院して学校行きたい」

 

「無理だな」

 

「何で?」

 

「最低でも、後一ヶ月は入院だ。残念だな」

 

 早く退院して学校に行きたいのに、そんなにまだあるのか。

 私は落胆した。

 先生はまた溜息を吐いた。

 

「……で、聞きたい事あんじゃねぇの?」

 

「先生、高橋先生と何かあったの?」

 

「彼奴のせいで俺は小児科になった。全部彼奴のせいなんだ」

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