第22話 救出

廃工場が見えてきたのは、夜が完全に落ちてからだった。石造りの古い建物で外壁が崩れかけているが、内部に明かりがある。人がいる。複数の魔力の気配も。


 感知を広げると、五つ。けれど何かが引っかかる。気配の質が均一ではない。四つは似た質——訓練を受けた人間の緊張した魔力。前線に立つ者の気配。残る一つだけ落ち着いていて、指示を出し、待っている者の気配だった。首謀者がいる、と思う。


「五人以上いる。わたしが先に入る」

「一人でか」

「感知があるから動きやすい。二人はリアンを運べるよう後ろで待っていて。外から追加が来たら処理を」


 シリルが頷く。「危なくなったら声をかけてください。リアンさんに怒られてしまうので」

「危なくなったらちゃんと声をかける」


 冗談ではなかったが、そう言った。


 正面扉を避け、東側の崩れた壁から入る。外灯のない廊下は暗く、老朽化した石の内壁があちこちで崩れ、足元の瓦礫が音を立てそうになる。でも関係ない。闇属性は暗い場所のほうが動きやすい。感知に五つの気配。リアンはさらに奥、地下に近い場所に、弱く、消えずにある。


 廊下の角で一人。魔法を組ませる前に背後から気配を殺して近づき、銃の柄で側頭部を打つと、音もなく倒れた。次の角に二人、話している。黒い霧を二人ぶんだけ絞って展開すると、視界を奪われた二人がわずかに動きを止める。その隙に感知で輪郭をなぞり、二発。威力は抑えてある。気絶させれば十分だ。


 地下への階段を下りた突き当たりの扉の前に、一人が待機していた。正面から相対すると、先に動いたのは敵——氷属性。季節外れの氷柱が肉薄してくるのを防御魔法で受け、相殺して砕く。続く二発目、三発目を干渉域で無効化しながら距離を詰め、銃の射程に入れて一発。腹部に命中し、敵が沈黙した。


 扉に刻まれた封印の術式は光属性ベースの構造で、干渉域を内側へ入り込ませて起点を崩すと、錠が外れる。開けると、リアンがいた。


 部屋の隅に座り、手首に魔力封じの枷。顔を上げる。


「お姉様」


 声が出なかった。一歩入ると立ち上がろうとして足元がふらつき、駆け寄って支える。肩に触れた手が温かい。


「怪我は」

「ないです。でも枷が——」


 干渉で崩せる構造だ。手をかざして解くと、リアンが深く息を吐いた。


「怖かった?」

「怖かったです。でも、来てくれると思っていました。お姉様なら絶対に」


 胸の奥で何かが動いたが、今は扱う余裕がない。


「立てる? エドヴァルトたちが外にいる。急いで——」


 背後で気配がした。振り向くと、扉の外に複数。最初に数えた五人より多い。奥に控えていた人間がいた。


「来なさい」


 リアンの手を取って走る。廊下を戻り、階段を上がる途中で行く手を二人に塞がれた。さっき倒していない人間だ。術式を組もうとする起点に干渉して形をなす前に崩し、銃を抜いて二発、足を撃ち抜く。倒れ込む二人の脇を抜け、崩れた壁から外へ出た。


 走ってきたエドヴァルトとシリルが、リアンを見て安堵の顔をする。


「無事よ。リアンも。でも中にまだいる」

「首謀者か」

「そう思う。入ったとき、五つの気配の中に一つだけ質が違うものがあった」

「……感知でそこまで読めるのか」少し目を細める。

「闇属性は気配の質を読む。慣れれば、ある程度わかる」

「先生方が向かっている。もう少しで着く。待つか」

「待たない。首謀者を確認したい。リアンをお願い」


 リアンの手を放し、エドヴァルトに目で伝えると、彼が頷く。


「気をつけろ」


 建物へ戻る。奥の部屋に、あの気配がまだあった。逃げる素振りもなく、落ち着いている。わたしが来ることをわかっていて待っている。走りながら、その気配の質を改めて確かめた。

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