第三話:聖剣抜去、その「場所」は。

 「死ね、下劣な勇者!」


​ ミラの放った重力魔法が、部屋全体を押しつぶす。


 「ぐっ……!?」


 アルベルトは逃げようとしたが、ミラの罠は巧妙だった。

 彼の足元の地面が急激に隆起し、さらに滑りやすい粘液が撒かれる。


 ​「うわあああ!?」


 ​派手に足を滑らせたアルベルト。彼は無様に空中を舞い、頭から地面に叩きつけられそうになった。

その時だ。

 運命のいたずらか、あるいは彼への罰か。

彼が真っ逆さまに落ちた先には、台座から「上向き」に突き出ていた、伝説の聖剣の切っ先があった。


​「あ」


 ​俺の口から、間の抜けた声が出た。

リナも、セシルも、ミラですら動きを止めてそれを見ていた。


​   ━━━ズボォォォォンッ!!━━━


​ 「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?」


​ 魔王城の入り口にまで届きそうな、この世の終わりみたいな絶叫。

 アルベルトのズボンの中心部、まさに「聖域(ケツ)」へと、伝説の聖剣が根元まで吸い込まれていった。

 物理の法則を無視したような、見事なホールインワンだった。


 ​「アルベルト様ぁぁぁ!?」

 「何が、何が刺さったの!? 嘘でしょ、そこなの!?」


​ セシルとリナが駆け寄る。だが、聖剣は「真の勇者」以外には動かせない。

 しかも、今回は勇者の尻と聖剣が、呪いと物理のダブルパンチで完全に固着してしまっている。


 ​「ひ、抜けない! びくともしないわ!」

 「アルベルト様が、聖剣と一体化して……ケツから柄が生えた変な生き物になっちゃう!」


​ のたうち回るアルベルト。尻から黄金に輝く柄が生えたその姿は、あまりにもシュールで、ミラの殺意すら「ドン引き」へと変わっていた。


 ​「……ふふ、あははは! 面白いわね勇者! そのまま聖剣の器として死になさい!」


 ​ミラがトドメの魔法を構える。その時。

俺の脳内に、ブラック企業時代に何度も聞いた「システム通知音」が響いた。


​【通知:特殊アイテム『ケツに刺さった聖剣』を検知】

【分析:この荷物は、現状世界で唯一、スキル『荷物持ち(万能)』を持つ者のみが『搬出』可能です】


 ​「……マジかよ」


​ 俺は、悶絶するアルベルトの元へ歩み寄った。


 「サトウさん、何をするの!? 危ないわ!」


 セシルが叫ぶ。俺は無視して、アルベルトのケツから生えた「柄」をしっかりと両手で握りしめた。


 ​「おいサトウ……やめろ……。お前なんかに、俺の……俺のそこを任せられるか……!」

 「黙っててください。これは、俺の仕事(タスク)です」


 ​俺は腰を落とし、ブラック企業で重いサーバーを一人で搬入した時の要領で、一気に力を込めた。


 ​「……フンッ!!」


​スポォォォォォンッ!!


​ 「アッーーー♂!!」


​ 心地よい解放の音と共に、俺の手には血一滴ついていない、眩いばかりの聖光を放つ剣が握られていた。

 それと同時に、世界を震わせる荘厳な声が響き渡る。


 ​『真の持ち主よ。今の抜きっぷり、実に見事であった。これほどまでに迷いなく「そこ」から抜けるのは、お前しかいない。今日からお前が勇者だ』


​ 「…………は?」


 ​手に馴染む聖剣。体中に溢れる万能感。

 一方、地面には「荷物(物理)」に降格し、尻を押さえて胎児のように丸まる元勇者の姿。


 ​「サトウさん……」


 リナが、赤らめた顔で俺を見た。


 「今の抜き方……すごく、ワイルドだったわ。……ねぇ、それ、私のことも抜いて……じゃなくて、守ってくれる?」

 ​「サトウ様、私気づきました。本当の輝きは、お尻じゃなくて、あなたのその手の中にあったのですね……」


 セシルが潤んだ瞳ですり寄ってくる。


 ​「……いや、お前ら現金すぎないか?」


 ​俺は聖剣を軽く振り、困惑するミラを一撃で消し飛ばした。

 ブラック企業の社畜、サトウ。

 29歳にして、勇者のケツから始まる第二の人生(成り上がり)が、今、幕を開けた…。

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