第55話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第55話 竹刀は、今も

夜明け前。

京の空は、まだ薄暗い。

静かな神社。

風が、木々を揺らしていた。

境内の中央。

そこに、源蔵は立っていた。

竹刀を背負い。

静かに。

その前には――

綾。

そして、

坂本龍馬。

少し離れた場所には、

近藤勇、

土方歳三、

沖田総司の姿もあった。

誰も、騒がない。

ただ静かに、その時を待っている。

綾が、小さく口を開いた。

「……本当に帰っちゃうんですね」

寂しそうな声。

源蔵は頷く。

「ああ」

短く。

それだけだった。

綾は俯く。

何か言おうとして。

でも、言葉が出ない。

そんな彼女を見て、龍馬が笑った。

「湿っぽいのは無しや」

軽い口調。

だが、優しい声だった。

土方が鼻を鳴らす。

「ま、好き勝手暴れて帰るあたり、爺さんらしいがな」

口は悪い。

だが、その顔には笑みがあった。

沖田も肩をすくめる。

「結局、一度も勝てませんでしたねぇ」

少し悔しそうに笑う。

近藤が、静かに源蔵を見る。

「見事な剣だった」

真っ直ぐな声。

「お前のような男に会えてよかった」

その言葉。

重かった。

源蔵は、ゆっくり頭を下げる。

短く。

だが、深く。

やがて。

空が、少しずつ白み始める。

龍馬が静かに言った。

「……時間や」

風が吹く。

境内の空気が変わる。

源蔵は、竹刀を握る。

そして。

振り返った。

京の町を見る。

長い時間ではなかった。

だが。

確かに、生きた。

戦い。

笑い。

出会い。

全部、この時代にあった。

綾が涙をこらえながら言う。

「……また会えますか?」

静かな問い。

源蔵は少し考える。

そして。

小さく笑った。

「さあな」

短く。

だが。

続ける。

「だが――」

竹刀を軽く持ち上げる。

「剣は残る」

その言葉。

綾の目から、涙が落ちた。

次の瞬間。

光が、境内を包む。

風が強く吹く。

視界が白く染まる。

そして――

消えた。

源蔵の姿が。

静寂。

誰も、すぐには動けない。

ただ。

風だけが吹いていた。

――場面が変わる。

現代。

朝。

小さな道場。

木の床。

静かな空気。

一人の老人が、ゆっくりと目を開ける。

源蔵だった。

道場の隅。

見慣れた景色。

いつもの場所。

夢――ではない。

源蔵は、ゆっくり立ち上がる。

そして。

壁に立てかけてある竹刀を見る。

静かに近づく。

手に取る。

その瞬間。

脳裏に浮かぶ。

京の町。

新選組。

天城。

綾。

すべて。

源蔵は、小さく笑った。

「……やれやれ」

低く呟く。

そのとき。

道場の扉が開く。

若い門下生が顔を出した。

「先生ー!」

元気な声。

「朝稽古、始めますよ!」

源蔵は振り返る。

少しだけ、背筋を伸ばす。

そして。

竹刀を肩に担いだ。

「ああ」

短く答える。

外では、朝日が昇っている。

新しい一日。

だが。

あの時代で得たものは、消えない。

源蔵は道場へ歩き出す。

ゆっくりと。

確かな足取りで。

竹刀は――

今も、その手の中にあった。

【完】

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