第54話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第54話 帰る場所
朝。
京の町は、静かだった。
昨夜の戦いが嘘のように。
人々が、壊れた家を直し、道を片付けている。
煙はまだ残っているが――
日常が、戻り始めていた。
その中を、源蔵は歩いていた。
竹刀を背負い、ゆっくりと。
すれ違う人々が頭を下げる。
「ありがとうございました」
「助かりました」
小さな声。
源蔵は、軽く頷くだけだった。
それ以上は、何も言わない。
やがて。
屯所へ戻る。
門の前には――
近藤勇が立っていた。
腕を組み、静かに待っている。
源蔵を見ると、小さく笑った。
「ご苦労だった」
低く、穏やかな声。
源蔵が頭を下げる。
短く。
その横から、声が飛んだ。
「終わったな」
振り向くと、
土方歳三が立っている。
腕を組み、少しだけ口元を上げていた。
「悪くねぇ剣だった」
それだけ言う。
だが、それで十分だった。
さらに、軽い足音。
「いやぁ、見事でしたよ」
振り向くと、
沖田総司が笑っている。
だが、その目は真剣だった。
「またやりたいですねぇ」
冗談のように言う。
源蔵は、少しだけ口元を緩めた。
ほんのわずかに。
そのとき。
背後から、場違いな声が響いた。
「いやぁ、えらい騒ぎやったなぁ」
振り向く。
そこに立っていたのは――
坂本龍馬だった。
変わらぬ調子。
どこか軽い笑顔。
綾が驚く。
「龍馬さん!?」
龍馬は手を振る。
「無事そうで何よりや」
そして、源蔵を見る。
じっと。
その目は、いつもより真剣だった。
「……話がある」
その一言で、空気が変わる。
場所を移す。
屯所の一室。
静かな部屋。
源蔵、綾、龍馬。
三人だけ。
龍馬が口を開く。
「おんしらが、この時代に来た理由」
ゆっくりと。
「心当たりはあるか?」
源蔵は首を振る。
龍馬は頷く。
「まあ、普通は分からん」
そして、続ける。
「この時代にはな」
少し間を置く。
「“歪み”がある」
綾が眉をひそめる。
「歪み……?」
龍馬が頷く。
「強い意志や縁が重なると」
静かに言う。
「別の時代と、繋がることがある」
源蔵は黙って聞いている。
龍馬がさらに続ける。
「おんしは、剣に生きてきた」
「そして、この時代もまた――剣の時代や」
視線が合う。
「呼ばれたんやろうな」
その言葉。
否定はできなかった。
やがて。
綾が小さく言う。
「……じゃあ、帰れるんですか?」
龍馬が少し笑う。
「帰れる」
はっきりと。
「来た場所に、もう一度行けばええ」
静かな声。
「夜明けの時刻に」
部屋が静まる。
源蔵の目が、わずかに動く。
帰れる。
その現実。
龍馬が言う。
「選ぶのは、おんしや」
短く。
それだけだった。
場面が変わる。
夕方。
屯所の庭。
源蔵が一人、立っている。
竹刀を持ったまま。
そこへ、綾が来る。
少し不安そうな顔。
「……帰るんですか?」
静かな問い。
源蔵は答えない。
少し間を置いて。
そして。
言った。
「帰る」
短く。
綾の目が揺れる。
「……そっか」
小さく呟く。
無理に笑う。
だが、少し寂しそうだった。
源蔵が言う。
「ここは……」
言葉を探す。
「いい場所だ」
短く。
「だが、俺の場所ではない」
それが答えだった。
綾は、ゆっくり頷いた。
何も言わない。
それが精一杯だった。
夜。
最初に来た場所。
静かな神社。
風が吹く。
虫の声。
源蔵が立っている。
竹刀を持って。
空を見上げる。
星が見える。
明日。
夜明けに。
帰る。
その現実が、そこにあった。
だが――
源蔵の表情に、迷いはない。
ただ。
静かな覚悟だけがあった。
風が、静かに吹いた。
(続く)
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