第53話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第53話 もう一人の剣士
夜明け。
東の空が白み始める。
屋根の上。
戦いの余熱だけが、まだ残っていた。
源蔵は立っている。
静かに。
その前で――
天城が膝をついていた。
刀は地に落ちている。
呼吸は荒い。
だが、その目にはもう、戦意はなかった。
沈黙。
風が吹く。
やがて、天城が小さく笑った。
「……負けたな」
かすれた声。
源蔵は何も言わない。
ただ、見ている。
天城が続ける。
「まさか……竹刀に負けるとはな」
わずかな皮肉。
だが、そこに悔しさはない。
ただ、事実を受け入れている。
そのとき、屋根の下から声が上がる。
「無事か!」
見上げているのは
近藤勇だった。
その横には
土方歳三と
沖田総司。
源蔵が軽く頷く。
それだけで、全て伝わった。
土方が息を吐く。
「……終わったか」
低い声。
沖田は、屋根の上の天城を見つめる。
「さて……どうします?」
静かに言った。
その言葉。
「処遇」を意味していた。
だが。
源蔵が先に口を開く。
「斬らん」
短く。
はっきりと。
土方が眉をひそめる。
「甘ぇな」
低く言う。
だが、否定ではない。
確認だった。
源蔵が答える。
「終わった」
それだけだった。
その言葉に、土方は黙る。
やがて、肩をすくめた。
「……好きにしろ」
短く言う。
沖田が小さく笑う。
「らしいですね」
軽く。
だが、その目は真剣だった。
屋根の上。
天城がゆっくりと顔を上げる。
源蔵を見る。
しばらく、何も言わない。
そして。
ぽつりと呟いた。
「……戻れると思うか」
小さな声。
それは、戦いとは関係のない問いだった。
源蔵が少しだけ考える。
そして。
答えた。
「分からん」
正直な言葉。
天城が苦笑する。
「だろうな」
静かに。
その目が、空を向く。
朝焼けが広がる。
眩しい光。
「俺は……」
言葉が途切れる。
少しだけ、迷うように。
そして。
続けた。
「勝つことしか、考えていなかった」
低い声。
「強くなれば、何かが変わると思っていた」
拳を握る。
わずかに震える。
「だが……」
小さく息を吐く。
「変わらなかった」
その言葉。
重かった。
源蔵は、何も言わない。
ただ、聞いている。
天城が続ける。
「この時代に来て」
空を見たまま。
「斬って、壊して……」
「変えられると思った」
静かに。
「だが」
ゆっくりと首を振る。
「違ったな」
その声には、もう迷いはなかった。
ただ、納得があった。
沈黙。
風が吹く。
やがて、天城が立ち上がろうとする。
ふらつく。
だが、倒れない。
源蔵が手を出す。
支える。
一瞬。
天城が驚いた顔をする。
だが、何も言わない。
ただ、その手を受けた。
静かに。
そのとき――
下から声が上がる。
「源蔵!」
振り向く。
そこに立っていたのは、綾だった。
不安そうな顔。
だが、ほっとした表情。
「……無事でよかった」
小さく言う。
源蔵が頷く。
短く。
天城が、その様子を見る。
そして。
ふっと笑った。
「……なるほどな」
小さく。
「守る理由か」
納得したようだった。
やがて。
ゆっくりと、源蔵から手を離す。
自分の足で立つ。
空を見る。
朝が来ている。
「……少し」
言葉を選ぶ。
「考える」
それだけ言った。
源蔵は何も言わない。
ただ、頷いた。
天城が振り返る。
その顔に、もう戦いの影はない。
静かな目。
「またな」
短く言う。
それが、別れの言葉だった。
次の瞬間。
屋根の向こうへ、姿を消した。
止める者はいない。
誰も追わない。
風が吹く。
朝日が差し込む。
長い夜が、終わった。
源蔵は、静かに立っていた。
竹刀を持ったまま。
その目に、迷いはなかった。
だが――
どこか、遠くを見ていた。
まだ、終わっていない。
その感覚だけが、残っていた。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます