第48話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第48話 折れなかった剣

夜。

火の手は少しずつ収まりつつあった。

だが京の空は、まだ赤い。

屯所の裏庭。

静かな場所。

そこに――

源蔵は一人で立っていた。

竹刀を握ったまま。

動かず。

ただ、夜風を受けていた。

遠くで、まだ人の声が聞こえる。

消火の音。

怒号。

だが、この場所だけは静かだった。

「……眠れないんですか?」

後ろから声。

振り向く。

そこに立っていたのは――綾だった。

少し不安そうな顔。

源蔵は短く答える。

「眠れん」

正直だった。

綾がゆっくり近づく。

少し迷ったようにしてから、言った。

「……怖くないんですか?」

静かな問い。

源蔵は答えない。

しばらく沈黙。

風が吹く。

そして。

小さく言った。

「怖い」

その一言。

綾が驚いた顔をする。

源蔵が続ける。

「負ければ」

短く。

「守れん」

それだけだった。

だが。

その言葉の重さ。

綾は何も言えなくなった。

源蔵が竹刀を見る。

じっと。

その瞬間――

記憶が蘇った。

現代。

明るい体育館。

ざわめき。

観客席。

拍手。

居合大会だった。

大きな舞台。

静まり返る空気。

中央に立つ、一人の男。

白い道着。

鋭い目。

無駄のない動き。

「天城……」

誰かが名前を呼ぶ。

観客がざわめく。

有名人だった。

抜刀。

――シュン。

一瞬。

風が裂けた。

次の瞬間。

試し斬りの的が、真っ二つに割れていた。

歓声。

拍手。

圧倒的だった。

源蔵は、その観客席にいた。

静かに。

黙って見ていた。

「……速い」

思わず呟いた。

あれは。

本物だった。

だが――

次の瞬間。

事故が起きた。

試技の最中。

一人の参加者が足を滑らせた。

体勢が崩れる。

真剣が、危険な角度で振られる。

悲鳴。

観客がどよめく。

誰も動けない。

一瞬の出来事。

だが――

そのとき。

源蔵は動いた。

迷わず。

柵を越え。

舞台へ飛び込む。

「止めろ!」

叫んだ。

体を張って。

倒れた参加者を押しのける。

真剣が、すぐ横をかすめた。

危なかった。

あと一瞬遅れていたら。

大怪我では済まなかった。

会場が静まり返る。

源蔵は、そのまま倒れた人を支えた。

「大丈夫か」

低く言った。

それだけだった。

だが――

その様子を。

天城は、じっと見ていた。

何も言わず。

ただ。

真っ直ぐに。

その目で。

見ていた。

――場面が戻る。

夜。

屯所の庭。

源蔵が静かに息を吐く。

綾が不安そうに言った。

「……何、思い出してたんですか?」

源蔵は、少しだけ間を置いた。

そして。

言った。

「……あの男を」

短く。

「昔、見た」

綾が目を見開く。

「え……?」

源蔵が続ける。

「居合の大会だ」

静かな声。

「強かった」

それだけ言った。

だが、その言葉の重さ。

綾には伝わった。

そのとき――

足音。

静かに近づく。

振り向く。

そこに立っていたのは――

沖田総司だった。

腕を組み、じっと源蔵を見ている。

「……思い出しましたか」

静かな声。

源蔵は頷く。

沖田が少し笑った。

「面白いですねぇ」

小さく言う。

「同じ時代の剣士が、ここで戦う」

静かな言葉。

そのとき。

源蔵が竹刀を握り直す。

ゆっくりと。

そして――

構えた。

今までとは違う。

無駄がない。

静かな構え。

だが。

どこか――鋭い。

沖田の目が細くなる。

「……変わりましたね」

小さく言った。

源蔵が言う。

低く。

静かに。

「剣は」

短く。

「守るためにある」

その一言。

風が吹く。

竹刀が、わずかに揺れる。

その瞬間――

遠く。

屋根の上。

一つの影。

仮面。

黒い外套。

あの男。

天城だった。

静かに立っている。

見ている。

源蔵を。

そして。

低く言った。

「……来い」

短い言葉。

挑発だった。

源蔵が顔を上げる。

視線が合う。

二人の目が。

夜の中で、ぶつかった。

戦いは。

もうすぐ。

終わりへ向かう。

だが――

その終わりは。

まだ始まったばかりだった。

(続く)

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