第41話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第41話 炎、京に上がる

屯所の庭。

夜気が張り詰めていた。

「全隊、出るぞ!!」

鋭く響いたのは、

土方歳三の声だった。

隊士たちが一斉に動く。

足音。

装備の音。

緊張が空気に満ちていた。

庭の中央では、地面に広げられた京の地図。

いくつもの印。

赤く。

危険を示す場所。

その横に立つのは、

近藤勇。

静かな声で言う。

「分隊を分ける」

短く。

的確だった。

「それぞれの地点に向かえ」

周囲の隊士たちが頷く。

その少し後ろ。

綾が青い顔で立っていた。

「……本当に全部燃えるの?」

声が震えている。

源蔵が横に立つ。

竹刀を握ったまま。

「全部は燃やさせん」

短く答えた。

綾が少しだけ息を吐く。

完全には安心できないが。

少しだけ――落ち着く。

そこへ。

軽い声。

「では、私たちはここですね」

微笑みながら地図を指したのは、

沖田総司。

指先が示したのは。

倉庫街に近い区域。

火薬が多く置かれていそうな場所。

「源蔵さんと一緒に行きましょう」

楽しそうに言う。

綾が顔をしかめる。

「楽しそうに言わないでください!」

沖田は笑うだけだった。

そのとき。

――パァン!!

遠くで音。

乾いた音。

全員が振り向く。

夜空。

一瞬の光。

そして――

煙。

赤い。

炎だった。

綾が息を呑む。

「……始まった」

震えた声。

次の瞬間――

別の方向。

さらに炎。

また別の場所でも。

火が上がる。

「ちっ……!」

土方が舌打ちする。

「同時か!」

想定通り。

だが、速すぎる。

近藤が叫ぶ。

「急げ!!」

一斉に動く。

隊士たちが散る。

夜の京へ。

街。

人々の叫び声。

「火事だ!!」

「水を持ってこい!!」

混乱。

走る人。

泣く子供。

煙が広がっていた。

源蔵たちが走る。

綾が必死についてくる。

「待って……!」

息が荒い。

「速すぎる……!」

だが、止まれない。

そのとき。

前方。

炎が上がっていた。

一軒の建物。

火が激しい。

「ここか」

源蔵が止まる。

炎の向こう。

人影。

黒装束。

数人。

油壺を持っている。

綾が叫ぶ。

「放火犯!」

その声に。

男たちが振り向く。

刀が抜かれる。

――シャッ。

沖田が笑う。

「見つかりましたねぇ」

静かな声。

敵が動く。

一斉に。

――ギィン!!

刃がぶつかる。

源蔵が踏み込む。

竹刀が振られる。

――バシン!!

一撃。

男が吹き飛ぶ。

もう一人。

横から斬り込む。

――ギィン!

弾く。

間髪入れず。

――バシン!!

二人目、倒れる。

沖田も動く。

滑るような足運び。

――シュッ!

敵の刀が宙を舞う。

一瞬。

静寂。

そして。

残った敵が、後ろへ下がる。

逃げようとする。

「逃がすな」

源蔵が低く言う。

踏み込む。

――バシン!!

背中に一撃。

男が地面に倒れる。

全滅。

綾が大きく息を吐く。

「……終わった?」

だが――

源蔵は首を横に振る。

「まだだ」

短い言葉。

そのとき。

遠くから声。

「助けてくれ!!」

男の叫び声。

振り向く。

隣の建物。

炎。

激しい。

中から、声。

人がいる。

閉じ込められている。

綾が叫ぶ。

「人がいる!!」

沖田が言う。

「行きましょう」

源蔵が頷く。

炎の前に立つ。

熱気。

強い。

普通なら近づけない。

だが。

源蔵が一歩踏み出す。

竹刀を握る手に力が入る。

「道を作る」

低く言った。

そして――

――バシン!!

燃え落ちてくる柱を叩く。

倒す。

炎の隙間ができる。

一瞬。

「今だ!」

沖田が飛び込む。

中へ。

煙の中。

数秒。

長い時間のように感じる。

やがて――

沖田が戻ってきた。

肩に人を担いでいる。

子供だった。

意識はある。

泣いている。

綾が駆け寄る。

「大丈夫!?」

子供が泣きながら頷く。

外へ連れ出す。

その瞬間。

遠く。

さらに大きな炎が上がった。

夜空が赤く染まる。

源蔵がその方向を見る。

目が細くなる。

嫌な予感。

強くなる。

そのとき。

一人の隊士が走ってきた。

息を切らして。

「報告!!」

叫ぶ。

「西の地区で……!」

言葉が詰まる。

そして。

「要人の屋敷が襲われています!!」

空気が凍った。

綾が呟く。

「……嘘でしょ」

だが。

嘘ではない。

敵の狙い。

それは――

そこだった。

源蔵が竹刀を握り直す。

「行くぞ」

低く言った。

戦いは。

まだ終わらない。

むしろ――

これからが本番だった。

(続く)

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