第41話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第40話 沈黙を破る者

屯所の奥。

薄暗い牢。

湿った空気が漂っていた。

柱に縄で縛られた男が一人。

第39話で捕らえた――あの逃走者だ。

額には血。

だが、その目は死んでいない。

むしろ。

静かに笑っていた。

その前に立つのは――

腕を組んだ

土方歳三。

その横には

近藤勇。

さらに。

少し後ろで壁にもたれている

沖田総司。

そして。

静かに立つ源蔵。

綾は少し離れた場所から様子を見ていた。

「……」

沈黙。

重い沈黙。

土方が口を開く。

「口を開け」

低い声。

刃のようだった。

男は――

何も言わない。

ただ、笑う。

かすかに。

土方の目が細くなる。

「舐めてるのか」

男が小さく息を吐いた。

「……もう遅い」

その言葉。

まただ。

第39話でも聞いた言葉。

綾が思わず言う。

「何が遅いの!」

声が少し震えていた。

男が目を向ける。

そして。

ゆっくりと笑う。

「京が……燃える」

静かな声。

だが。

背筋が冷える声だった。

近藤が一歩前に出る。

「どういう意味だ」

低く、落ち着いた声。

男は沈黙する。

再び。

何も言わない。

空気が張り詰める。

そのとき。

コツ、と音。

沖田が前へ出てきた。

柔らかく笑っている。

「そんなに怖い顔しないでください」

穏やかな声。

まるで友人に話しかけるようだった。

だが――

目は笑っていない。

冷たい。

底のない深さだった。

沖田がしゃがむ。

男と目線を合わせる。

「少し、話してもらえませんか?」

優しい口調。

男が笑う。

「……優しいな」

沖田が首を傾ける。

「ええ」

少しだけ笑う。

「優しいですよ」

一瞬、間。

そして。

小さく。

「……話してくれないと、困りますから」

その一言。

空気が凍った。

男の表情が、わずかに変わる。

ほんのわずか。

だが、確実に。

沖田が続ける。

「あなたたちの組織」

静かに。

「名前は?」

男が目を閉じる。

沈黙。

数秒。

やがて――

口が開いた。

「……黒鴉」

低い声。

その場の空気が変わる。

綾が呟く。

「黒……鴉……?」

土方が腕を組む。

「聞いたことがある」

低く言う。

「裏で動く連中だ」

近藤が続ける。

「ただの浪士集団じゃない」

男が笑う。

誇るように。

「そうだ」

小さく頷く。

「黒鴉は……影だ」

静かな声。

「京を動かす影だ」

綾が息を呑む。

嫌な予感しかしない。

源蔵が問う。

「京が燃えるとは」

短い言葉。

男がゆっくり顔を上げる。

「火だ」

その一言。

「京のあちこちで……火が上がる」

綾が目を見開く。

「……火事?」

男が頷く。

「同時にだ」

その言葉。

全員の表情が固まる。

土方が吐き捨てる。

「同時火災か……!」

男が笑う。

「混乱が起きる」

淡々と続ける。

「人が逃げる」

「町が崩れる」

「その隙に――」

少し間。

そして。

「要人が死ぬ」

静まり返る。

誰も言葉を出せない。

近藤が問う。

「いつだ」

低い声。

男が答える。

「今夜」

その一言。

重かった。

綾の顔が青くなる。

「……今夜?」

信じられない。

時間がない。

男が笑う。

「止められん」

ゆっくりと。

「もう動いている」

その声。

絶対の確信があった。

土方が振り返る。

「地図を持ってこい!」

隊士が走る。

すぐに戻ってくる。

京の地図が広げられる。

印がいくつも付けられる。

町。

橋。

倉。

複数。

「これ全部……?」

綾が呟く。

震えた声。

源蔵が地図を見る。

静かに。

だが、目は鋭かった。

「間に合うか」

土方が答える。

「間に合わせる」

短い。

迷いのない声。

近藤が言う。

「全隊、出るぞ」

静かな命令。

だが、重かった。

沖田が笑う。

「忙しくなりますねぇ」

楽しそうですらある。

綾が思わず言う。

「楽しそうに言わないでください!」

誰も笑わない。

状況が重すぎた。

源蔵が竹刀を握る。

強く。

静かに言った。

「急ぐぞ」

その一言で。

全員が動き出した。

外。

夜はまだ終わっていない。

だが――

京のどこかで。

炎が上がる準備が進んでいる。

戦いは。

もう始まっていた。

(続く)

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