第38話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第38話 闇の会合
夜明け前。
空が、わずかに白み始めていた。
屯所の一室。
障子の向こうに、朝の気配が漂っている。
「……ほんとに死ぬかと思った」
綾が畳に座り込んだまま言った。
肩が上下している。
まだ息が整っていない。
「心臓がまだバクバクしてる……」
その横で、湯飲みを持ちながら微笑んでいるのは
沖田総司。
「でも、収穫は大きかったですねぇ」
穏やかな声。
まるで散歩から帰ってきたかのような口調。
「大きすぎて怖いんですけど!」
綾が思わず叫ぶ。
その前には――
地図。
そして、倉庫で見た内容を書き記した紙。
部屋には、重い空気が流れていた。
腕を組んでいるのは
近藤勇。
その横には
土方歳三。
さらに――
静かに腕を組んでいる
坂本龍馬。
龍馬が低く言った。
「もう一度、聞かせてくれ」
静かな声だった。
だが、真剣だった。
源蔵が答える。
「銃と火薬」
短い。
「大量だった」
部屋が、静まり返る。
土方が低く呟く。
「戦をやる気だな」
近藤が続ける。
「しかも京の中でか」
ただの密輸ではない。
明らかに――
戦争準備。
綾が言う。
「あと……密会」
紙を指差す。
「中央にいた人が、“報告は済んでいる”って」
龍馬が目を細める。
「名前は」
綾が息を整える。
思い出す。
はっきりと。
「あの人……」
少し間。
そして。
「“○○様には伝えてある”って言ってた」
沈黙。
重い沈黙。
土方が舌打ちする。
「面倒な名前が出てきやがったな」
その反応で。
綾が確信する。
ただの名前じゃない。
「知ってる人なんですか?」
龍馬が答えた。
「噂には聞いとる」
低い声。
「表には出てこんが……裏では大きく動いとる男じゃ」
そのとき。
ふと、沖田が口を開いた。
「それより」
少しだけ笑う。
だが、目は鋭い。
「火のことが気になりますねぇ」
全員の視線が向く。
綾も思い出す。
「そうだ……!」
倉庫の外。
突然の火事。
あれがなければ――
確実に見つかっていた。
龍馬がゆっくり言う。
「偶然じゃないぜよ」
その一言で。
空気が変わった。
源蔵が言う。
「誰かが……動いたか」
龍馬が小さく頷く。
「助けた者がいる」
短い沈黙。
綾が小さく呟く。
「……誰?」
答えは出ない。
だが。
一人の顔が、源蔵の頭をよぎっていた。
あの男。
膝をつき。
笑っていた男。
――岡田以蔵。
だが、口には出さない。
まだ確証はない。
その頃。
京の別の場所。
広い屋敷。
静まり返っている。
一室。
灯りが一つ。
そこに、男が座っていた。
細い目。
冷たい視線。
前に、膝をついた男がいる。
「倉庫が露見しました」
低い声。
報告。
座っている男は、動かない。
沈黙。
数秒。
そして――
「そうか」
小さく言った。
怒りもない。
焦りもない。
ただ――
計算している顔だった。
「問題ない」
淡々とした声。
「次に移る」
報告の男が顔を上げる。
「では……」
男が言う。
「始末しろ」
短い。
冷たい命令。
その意味は明確だった。
「源蔵という男」
その名が。
静かに告げられた。
「生かしておくな」
空気が凍る。
屯所。
外。
夜明け前。
まだ暗い。
綾が外へ出た。
少し空気を吸いたくなった。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
だが――
違和感。
妙な気配。
人影。
遠く。
一つ。
二つ。
三つ。
「……?」
眉をひそめる。
おかしい。
多い。
明らかに。
そのとき。
背後から声。
「どうした」
源蔵だった。
綾が小声で言う。
「なんか……外」
言いかけた瞬間――
――シュッ!!
音。
空気を裂く。
矢。
源蔵が動く。
――バシン!!
竹刀で弾いた。
矢が地面に転がる。
次の瞬間。
屋根の上。
影。
複数。
「敵襲!!」
綾が叫ぶ。
屯所の中から、音。
――ガン!!
扉が開く。
「来たか!」
土方歳三が飛び出す。
その後ろから――
沖田総司。
笑っていた。
だが、その笑みは冷たい。
「ようやく来ましたねぇ」
影が降りてくる。
数人。
動きが違う。
速い。
訓練されている。
普通の浪士ではない。
「精鋭か……!」
土方が低く言う。
次の瞬間。
敵が動く。
――ギィン!!
刃。
衝突。
源蔵が一歩踏み込む。
――バシン!!
一撃。
敵が吹き飛ぶ。
だが。
そのとき。
一人の敵が後ろへ跳んだ。
逃げる。
明らかに。
情報を持っている動き。
源蔵が言う。
「逃がすな」
低い声。
沖田が笑う。
「追いましょうか」
土方が叫ぶ。
「追え!!」
夜の京。
影が走る。
屋根の上。
路地の奥。
追跡が始まった。
本格的な戦いが。
再び、動き出していた。
(続く)
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