第37話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第37話 闇に潜む影
夜。
京の外れ。
倉庫街は、静まり返っていた。
波の音だけが響く。
ザァ……ザァ……
潮の匂い。
積み上げられた荷。
暗闇の中に、影がいくつも揺れている。
「……いたな」
小さく呟いたのは、源蔵だった。
その視線の先。
倉庫の前に、数人の男が立っている。
見張り。
明らかに、普通の浪士ではない。
姿勢が違う。
気配が違う。
その横で、小さな声。
「……帰りたい」
綾だった。
本気で震えている。
「めちゃくちゃ帰りたい」
源蔵が答える。
「無理だな」
即答。
「ですよねぇ……」
肩が落ちる。
その横で、くすっと笑う声。
沖田総司だった。
「静かにやりましょうね」
楽しそうに言う。
だが、目は笑っていない。
鋭い。
完全に戦場の目だった。
「沖田さんが一番怖いです……」
綾が小声で言う。
沖田は軽く笑うだけ。
「普通じゃないですねぇ」
小さく呟く。
見張りの動きを見ながら。
「訓練されています」
源蔵が頷く。
「浪士ではない」
三人。
静かに動き出す。
影から影へ。
音を立てない。
一歩。
また一歩。
倉庫の裏側へ回る。
裏口。
半開き。
源蔵が指で合図。
入る。
中は暗い。
荷箱が並んでいる。
木の匂い。
油の匂い。
綾が息を止める。
「心臓止まりそう……」
小声。
本気だった。
源蔵が近くの箱を指す。
沖田が静かに近づく。
蓋に手をかける。
ゆっくりと。
――ギ……
開く。
中が見えた。
綾が目を見開く。
「……え?」
声が出そうになる。
必死で抑える。
中にあったのは――
銃。
見たことのない形。
異国の武器だった。
さらに。
別の箱。
開ける。
火薬。
大量。
その量。
明らかに異常。
「……戦を起こす気か」
源蔵が低く言う。
沖田が笑う。
だが、冷たい笑い。
「ただの裏稼業じゃないですねぇ」
そのとき。
外。
足音。
――コツ。
――コツ。
三人が止まる。
影に身を隠す。
息を殺す。
倉庫の扉が開く。
――ギィ……
数人の男が入ってきた。
中央に立つ男。
周囲より格が違う。
幹部。
「準備は進んでいるか」
低い声。
別の男が答える。
「問題ありません」
短い会話。
だが。
空気が重い。
中央の男が言う。
「次の一手は近い」
静かな声。
「京を揺らす」
その言葉。
綾の背中に冷たい汗が流れる。
(ヤバい……)
本能が叫んでいた。
中央の男が続ける。
「報告は済んでいる」
少し間。
そして――
「○○様には伝えてある」
その名前。
聞こえた瞬間。
沖田の目が、わずかに細くなった。
源蔵も。
空気が変わる。
ただの裏勢力ではない。
もっと上がいる。
確信だった。
そのとき。
綾の足が。
わずかに動いた。
木片。
――カタン。
落ちた。
音。
小さい。
だが――
静かな倉庫では。
大きすぎた。
全員が止まる。
中央の男が振り向く。
「……誰だ」
低い声。
一歩。
近づく。
また一歩。
足音。
――コツ。
――コツ。
近づく。
綾の顔が青くなる。
(終わった……)
沖田が小声で言う。
「……動かないでください」
ほとんど息の音。
源蔵も動かない。
ただ、気配を消す。
男が近づく。
あと数歩。
見つかる。
その瞬間――
外。
「火だ!!」
叫び声。
倉庫の外から。
騒ぎ。
「火が出たぞ!!」
男たちが動く。
「なに!?」
中央の男が振り返る。
注意が外へ向く。
混乱。
一瞬の隙。
源蔵が小さく言う。
「今だ」
三人。
同時に動く。
影のまま。
倉庫を抜ける。
外へ。
暗闇の中へ。
息が荒い。
綾が壁にもたれる。
「……死ぬかと思った」
本気だった。
沖田が空を見上げる。
「火……ですか」
遠く。
小さな炎が上がっていた。
誰かが起こした。
偶然か。
それとも――
源蔵が言う。
「大きく動くぞ」
低い声。
確信だった。
倉庫。
武器。
そして――
名前。
すべてが繋がっていた。
京が。
揺れようとしていた。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます