第32話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第32話 無拍子、極まる

静かだった。

異様なほどに。

灯りが一つ。

ゆらゆらと揺れている。

その光の中。

二人が向かい合っていた。

源蔵。

そして――

岡田以蔵。

「来たか」

以蔵が言う。

低い声。

源蔵は竹刀を構えたまま、静かに答える。

「また会ったな」

互いに動かない。

空気が重い。

張り詰めている。

音が消える。

外の戦いの気配すら届かない。

別の世界のようだった。

以蔵が言う。

「なぜ斬らぬ」

突然の問い。

源蔵は少しだけ目を細める。

「守るためだ」

短い答え。

迷いはない。

以蔵が続ける。

「斬らねば変わらぬ」

ゆっくりと刀を上げる。

「この国は腐っている」

静か。

だが、その声には熱があった。

「変えるには――」

次の瞬間。

消えた。

――ギィン!!

刃が来る。

最速。

前回より速い。

源蔵が受ける。

竹刀で。

火花が散る。

重い。

「くっ……」

わずかに押される。

足が半歩下がる。

「遅いぞ」

以蔵が言う。

次。

――ギン!!

――ギィィン!!

連撃。

速い。

止まらない。

源蔵が外す。

半歩。

最小。

だが――

完全ではない。

かすめる。

袖が裂ける。

「……やるな」

源蔵が言う。

以蔵が笑う。

「読めてきた」

低く。

はっきりと。

無拍子。

その動きを。

「止まり際が見える」

次の瞬間。

――ギィン!!

刃が深く入る。

竹刀が弾かれる。

源蔵が大きく後ろへ下がる。

初めてだった。

ここまで押されたのは。

空気が変わる。

以蔵が言う。

「斬らねば変わらぬ」

踏み込む。

重い一撃。

――ギン!!

源蔵が受ける。

腕が痺れる。

「守らねば残らぬ」

源蔵が答える。

息が静か。

だが――

目が変わる。

一歩。

前へ。

その動きが――

変わった。

遅い。

明らかに。

遅い。

以蔵が眉を動かす。

「……?」

次の瞬間。

――スッ。

刃が空を切る。

完全に。

外れた。

「……何だ」

以蔵が低く言う。

源蔵の動き。

さらに小さい。

さらに遅い。

だが――

速い。

矛盾。

目が追えない。

無拍子。

その先。

「……極まったか」

以蔵の口元が上がる。

笑った。

はっきりと。

「面白い」

次。

踏み込む。

本気の一撃。

最速。

最短。

だが――

――バシン!!

外された。

完全に。

初めて。

以蔵の刃が。

完全に。

止められた。

空気が震える。

源蔵が言う。

「まだだ」

低い声。

「終わってない」

再び動く。

互いに。

――ギィン!!

――ギィィン!!

激突。

連撃。

連撃。

火花。

音。

衝撃。

床が割れる。

柱が軋む。

空間が震える。

以蔵が笑う。

「いい……!」

楽しんでいる。

完全に。

剣を。

戦いを。

そのとき。

外。

遠く。

別の戦場。

――ガン!!

重い音。

土方歳三の剛剣。

幹部と激突している。

別の場所。

――ギィン!!

沖田総司の高速戦。

刃が見えない。

さらに中央。

「押し返せ!!」

近藤勇の声。

まだ戦いは終わっていない。

そして。

再び。

源蔵と以蔵。

互いに距離を取る。

静止。

息が白く見えるほどの緊張。

以蔵が構える。

源蔵も構える。

完全な沈黙。

次の瞬間。

同時に動いた。

――ドォン!!

激突。

竹刀と刀。

正面から。

火花が爆ぜる。

衝撃。

煙。

視界が消える。

何も見えない。

ただ――

音だけが残る。

――ギィン。

その中で。

戦いは。

まだ終わっていなかった。

(続く)

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