第28話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第28話 京に広がる刃
朝の屯所は、いつもと違う空気だった。
重い。
静か。
そして――忙しい。
負傷者の手当て、証言の整理、報告書。
「……これで終わりじゃねぇ」
低く言ったのは土方歳三だった。
机の上には、救出された剣士たちの証言。
「地下は一部に過ぎない」
「別の場所がある」
「上でも動いている」
その言葉に、誰も否定できない。
近藤勇が静かに言う。
「京を守る」
短い言葉。
だが、決意は重い。
綾が小さく呟く。
「もうこれ……戦争じゃん……」
誰も否定しなかった。
その夜。
京の路地。
静かなはずの通りに、悲鳴が響く。
「助けて!!」
影。
黒い集団ではない。
普通の格好。
だが――速い。
鋭い。
「来たぞ!」
隊士が叫ぶ。
沖田総司が一瞬で飛び込む。
――ギンッ!
一撃。
二人倒れる。
「普通に強いですねぇ」
軽く笑うが、目は鋭い。
「地下とは違う」
土方が刀を抜く。
「こっちは“表”か」
敵は町に紛れている。
逃げる。
混ざる。
消える。
「厄介だな……」
源蔵が呟く。
竹刀を構えながら歩く。
一歩。
――バシン!
壁の影にいた男が倒れる。
最小の動き。
だが確実。
「気配が違う」
源蔵は続ける。
「地下より整っている」
綾が後ろから叫ぶ。
「それ怖いセリフなんだけど!」
別の屋根。
夜風。
一人の男。
岡田以蔵。
戦いは見ているだけ。
動かない。
ただ、目を細める。
「始まったか」
短く言う。
その視線の先で、京が揺れている。
その頃。
別の通り。
同時に複数の悲鳴。
「火事だ!」
「人が消えた!」
「襲われた!」
綾が立ち尽くす。
「ちょっと待って……同時!?」
土方が舌打ちする。
「分散してやがる」
近藤が即断する。
「手分けだ」
命令は速い。
迷いはない。
沖田が笑う。
「忙しくなりますねぇ」
「嬉しそうに言うな!!」
綾が叫ぶ。
源蔵は空を見上げる。
夜の京。
あちこちで火が上がる。
静かだった町が、一気に“戦場”へ変わっていく。
「広がったな」
ぽつりと言う。
その言葉に、土方が答える。
「もう隠れてねぇ」
刀を握り直す。
「これは表の戦だ」
別の路地。
敵が逃げる。
その背後。
一瞬の気配。
――バシン!
倒れる音。
源蔵。
無駄がない。
静か。
確実。
綾が追いつく。
「もう何人目!?」
「数えてない」
即答。
「怖いってその冷静さ!」
遠くの屋根。
岡田以蔵は立ち上がる。
ゆっくりと。
刀を持つ。
「……面白い」
小さく笑う。
「ようやく“戦”になったか」
その夜。
京は一斉に燃え始めた。
火。
悲鳴。
刃。
点だった事件は、線になり――
今、面になる。
屯所。
近藤が立つ。
近藤勇。
「守る」
短い。
強い。
それだけで十分だった。
土方が頷く。
「やるしかねぇな」
沖田が刀を回す。
「楽しくなってきました」
綾は頭を抱える。
「全然楽しくないんだけど!!」
源蔵はただ一言。
「来るな」
誰に向けた言葉かは、誰も聞かなかった。
ただ――
京の夜が、完全に変わったことだけは確かだった。
(続く)
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