第26話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第26話 理と刃
地下の空気が、止まった。
誰も動かない。
たいまつの火だけが揺れている。
目の前に立つ男。
岡田以蔵。
静か。
だが、凄まじい圧。
綾が小さく呟く。
「……やばい」
声が震えている。
「今までと……全然違う……」
源蔵は何も言わない。
ただ、竹刀を構える。
最小の動き。
無駄がない。
以蔵が一歩前へ出る。
「……やるか」
低い声。
源蔵が答える。
「来い」
次の瞬間。
――消えた。
以蔵の姿が、消えた。
「速っ!?」
綾の声。
その瞬間。
――ギンッ!!
激しい金属音。
源蔵の竹刀が、刀を受けていた。
火花が散る。
重い。
今までで、一番重い。
押される。
足がわずかに滑る。
「……いいな」
以蔵が低く言う。
その目が光る。
「これが、噂の剣か」
次。
――ギィン!!
連続。
速い。
止まらない。
源蔵が外す。
半歩。
最小。
無駄がない。
だが――
完全には外しきれない。
「変えるには」
以蔵が言う。
振り下ろす。
「斬るしかない」
重い一撃。
源蔵が受ける。
床が軋む。
「守るには」
源蔵が答える。
一歩。
「止める」
――バシン!!
竹刀が弾く。
以蔵の刃が、わずかに逸れる。
「……ほう」
以蔵の口元が、少しだけ動く。
笑っている。
戦いながら、言う。
「この国は、腐っている」
斬撃。
速い。
鋭い。
「変えるには、血が要る」
さらに一撃。
源蔵が外す。
半歩。
「それが俺の剣だ」
迷いのない声。
源蔵は言う。
「守るための剣もある」
静かな声。
だが、重い。
二人の刃がぶつかる。
――ギィィン!!
火花が散る。
その光を、周囲の者たちが見ていた。
腕を組む男。
土方歳三。
「……入れねぇ」
低く呟く。
その横で。
沖田総司が笑う。
「別格ですね」
だが、その目は真剣。
「二人の世界ですよ」
さらに激突。
――ギン!!
――バシン!!
源蔵の動きが変わる。
わずかに。
さらに小さく。
さらに短く。
以蔵の刃が空を切る。
「……外したか」
以蔵の目が細くなる。
初めて。
完全に。
外した。
無拍子。
静かな完成。
「……いい」
以蔵が言う。
笑う。
はっきりと。
「実にいい」
そのとき。
天井が揺れる。
ミシ……
音。
綾が振り向く。
「ちょっ……!」
瓦礫が落ちてくる。
「うわああっ!?」
崩れる。
足場が崩れる。
源蔵が振り向く。
一瞬。
綾へ。
――バシン!
竹刀で瓦礫を弾く。
「下がれ」
短い声。
その瞬間。
以蔵が動く。
速い。
迷いがない。
「隙だ」
最大の一撃。
――ギィィン!!
源蔵が受ける。
両手で。
衝撃。
床が割れる。
「くっ……!」
綾が息を呑む。
そのとき。
「退け!!」
響く声。
近藤勇。
天井が崩れ始めている。
土方が叫ぶ。
「全員退け!!」
瓦礫が落ちる。
煙が広がる。
視界が消える。
音。
崩壊。
混乱。
そして――
静寂。
煙の中。
足音。
――コツ。
――コツ。
現れたのは。
岡田以蔵。
無傷ではない。
だが、立っている。
源蔵を見る。
「……次だ」
短い言葉。
背を向ける。
闇へ消える。
止められない。
土方が舌打ちする。
「逃げやがったか……!」
沖田が小さく笑う。
「面白くなってきましたね」
綾がへたり込む。
「面白くないって……」
震える声。
源蔵は立ったまま。
竹刀を下ろす。
静かに言う。
「まだ終わらない」
地下は崩れ続けている。
だが。
戦いは、終わっていない。
むしろ――
本格的に始まったばかりだった。
(続く)
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