第17話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第17話 近藤勇という男
「……来い、ってだけ?」
綾が紙をひらひらさせる。
「場所も理由もなし!? 絶対罠でしょこれ!」
「だろうな」
源蔵はあっさり言った。
「行くの!?」
「行く」
「なんで!?」
「呼ばれたからだ」
「軽いって!!」
そのとき。
「まあまあ、そう怖がるなや」
声。
振り向けば、いつもの男。
坂本龍馬。
「絶対あんた絡んでるでしょ!?」
綾が指をさす。
龍馬は笑うだけ。
「ちぃと顔合わせじゃ。悪い話やない」
「信用できないんだけど!?」
「それでも行くぜよ」
源蔵はもう歩き出していた。
「だから早いって!!」
河原。
風が吹く。
静かな空間。
そこに――
立っていた。
数人の隊士。
そして、その中心。
一人の男。
静か。
だが、空気が違う。
(……この人……)
綾の背筋がぞくりとする。
土方とも違う。
沖田とも違う。
重いのに、柔らかい。
その男が一歩、前に出る。
近藤勇。
「お前が、例の剣士か」
声は穏やかだった。
だが、逃げ場がない。
源蔵はいつも通り。
「そうだ」
短い返答。
沈黙。
風の音だけが流れる。
次の瞬間。
近藤が一歩、踏み出した。
――圧。
空気が沈む。
綾が息を呑む。
(来る……!?)
だが――
止まる。
ほんの一歩の距離。
源蔵と、真正面。
互いに動かない。
だが、分かる。
(……見られてる……)
全て。
呼吸も。
重心も。
癖も。
「……なるほどな」
近藤が小さく呟く。
一歩、下がる。
それだけで、圧が消えた。
綾が思わず息を吐く。
「はぁ……!」
近藤が源蔵を見る。
まっすぐに。
「敵にするには惜しい」
静かな一言。
だが、重い。
その場の空気が変わる。
隊士たちもざわつく。
「……いいんですか」
後ろから声。
土方歳三。
腕を組んで立っている。
近藤は振り返らない。
「無駄な争いはせん」
それだけ。
土方は一瞬だけ源蔵を見て、何も言わなかった。
横で、くすっと笑う声。
沖田総司。
「残念ですね。もっと見たかったのに」
「見世物じゃない」
土方が低く返す。
空気が少しだけ緩む。
そのとき。
「ほれ、言うた通りじゃろ?」
軽い声。
振り向けば、いつの間にかいる男。
「だからいつからいたの!?」
綾が叫ぶ。
龍馬が笑う。
「これでええ感じじゃ」
近藤がちらりと見る。
「お前の差し金か」
「さて、どうじゃろ」
とぼける。
だが否定はしない。
近藤は小さく息を吐いた。
「……京は、荒れる」
その一言で、空気が締まる。
「止めるかどうかは――」
一瞬、源蔵を見る。
「お前次第だ」
静かな宣言。
綾が固まる。
「え、責任重くない!?」
源蔵は変わらない。
「知らん」
「知らんで済む話じゃないよね!?」
近藤がわずかに笑った。
「面白い男だ」
それだけ言って、背を向ける。
「行くぞ」
新選組が動く。
土方、沖田も続く。
去っていく背中。
戦いは、起きなかった。
だが――
何かが、決まった。
静寂。
風が吹く。
綾がその場に崩れる。
「……寿命縮んだ……」
源蔵は竹刀を肩に担ぐ。
「そうか」
「そうだよ!!」
龍馬が空を見上げる。
「これで舞台は整ったぜよ」
「何が!?」
綾が叫ぶ。
龍馬は笑うだけ。
答えない。
京の空気が変わる。
嵐の前。
静かな、最後の準備。
そして――
次は、動く。
(続く)
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