第12話
令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜
第12話 潰しに来た鬼
「いただきまーす!」
夕餉の時間。
綾が箸を取った瞬間――
ザッ。
外で足音。
一つじゃない。
一気に増える。
「……来たな」
久我新兵衛が呟く。
「え、ちょっと待って今ご飯――」
バン!!
戸が開く。
なだれ込む人影。
新選組。
抜刀。
無言。
殺気。
「囲め」
低い声が、空気を裂く。
中心に立つ男。
土方歳三。
「潰す」
たった一言。
戦いが始まった。
――速い。
隊士たちが一斉に踏み込む。
四方から。
死角から。
逃げ場はない。
「ちょっ、ほんとに来たああ!?」
綾が叫びながら竹刀を構える。
(やるしかない!)
踏み込む。
――バシン!
一人、弾く。
「まだ……!」
二人目。
三人目。
だが――
数が多い。
「くっ……!」
囲まれる。
左右、後ろ。
(やばい……!)
その瞬間。
コツ。
足音。
「下がれ」
源蔵。
同時に――
――バシン、バシン、バシン!
一瞬で三人が崩れる。
「……!」
綾が息を呑む。
流れが変わる。
源蔵が前に出る。
竹刀一本。
それだけで、空間を支配する。
来る。
隊士たちが、連携して詰める。
だが――
当たらない。
すべて、わずかにズレる。
(何で……!?)
踏み込む“前”に、そこにいる。
振るう“前”に、打たれている。
(見えない……!)
綾の目では追えない。
だが、分かる。
(守ってる……!)
自分の前に、必ず源蔵がいる。
攻撃だけじゃない。
防いでいる。
弾いている。
通さない。
そのとき。
「甘ぇ!」
別の隊士が綾へ突っ込む。
「っ!?」
反応が遅れる。
間に合わない――
――バシン!
目の前で止まる。
源蔵の竹刀。
「言っただろ」
「……うん」
綾が悔しそうに下がる。
戦場の中心。
源蔵一人。
だが、崩れない。
隊士たちが後ずさる。
ざわめき。
「……何だあの間……」
そのとき。
「どけ」
低い声。
空気が凍る。
隊士たちが一斉に下がる。
道が開く。
そこを歩いてくる。
土方歳三。
静かに刀を抜く。
「お前が相手だ」
源蔵が竹刀を構えた。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
踏み込み。
――ガンッ!!
重い衝撃。
空気が震える。
綾が息を呑む。
(重い……!)
今までと違う。
速さだけじゃない。
圧。
殺気。
土方の一太刀が、空間ごと叩き潰す。
だが――
止まっている。
源蔵の竹刀が、受けている。
「……なるほどな」
土方の目が細くなる。
もう一歩、踏み込もうとしたそのとき。
「そこまでだ」
刀が止まる。
綾が目を見開く。
「え!?」
土方はゆっくりと刀を納めた。
周囲を見る。
倒れた隊士たち。
息の乱れ。
損耗。
「引け」
短い命令。
「はっ!」
一斉に動く。
撤退。
整然と、速い。
あっという間に気配が消える。
静寂。
綾がその場にへたり込む。
「……無理……死ぬかと思った……」
息が荒い。
源蔵は竹刀を肩に担いだ。
「まだだな」
「まだあるの!?」
新兵衛が低く言う。
「……次は、終わらせに来る」
その言葉の重さ。
空気が冷える。
そのとき。
「いやあ、えらいことになっとるのう」
声。
振り向くと、男が立っていた。
「また来たの!?」
綾が叫ぶ。
男――坂本龍馬は笑う。
「これは、もう遊びじゃないぜよ」
珍しく、声が少しだけ真面目だった。
源蔵は一言。
「関係ない」
「いやあるでしょ!?」
綾が叫ぶ。
夕闇が落ちる。
道場の空気は、もう戻らない。
新選組。
“潰し”。
その本気が、すぐそこまで来ている。
そして――
次で終わる。
誰もが、それを感じていた。
(続く)
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