第7話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第7話 一本の答え

夕暮れ。

道場に、長い影が落ちていた。

風が止む。

音が消える。

「……来たか」

久我新兵衛が呟く。

その視線の先。

静かに立っていた。

沖田総司。

前回と同じ笑み。

だが――違う。

空気が重い。

「約束通り、来ましたよ」

柔らかな声。

だが、その一歩で、場の空気が変わる。

綾が息を呑む。

(……怖い)

前よりも、はっきりと分かる。

「今日は、本気でいきます」

刀に手がかかる。

源蔵は、静かに竹刀を構えた。

「好きにしろ」

それだけ。

だが、その目は細められている。

「綾、下がれ」

「……うん」

素直に従う。

それだけで分かる。

これは、自分の入る領域じゃない。

縁側では、新兵衛が腕を組んで見ている。

その横で、あの男があくびをした。

「いやあ、楽しみじゃのう」

「うるさい!」

綾が小声で怒鳴る。

男――坂本龍馬は笑う。

「ええ勝負になるぜよ」

その瞬間。

動いた。

――速い。

綾の視界から、二人が消えた。

次の瞬間には、音だけが響く。

――ガンッ!

竹刀と刀。

ぶつかる。

弾く。

流れる。

(……見えない……!)

ただ、速いだけじゃない。

“間”がない。

沖田の連撃。

一閃、二閃、三閃。

すべてが致命。

だが――当たらない。

源蔵は、ほんのわずかに動くだけ。

(どうして……!?)

綾の思考が追いつかない。

沖田の目が細くなる。

「……まだ、余裕ですか?」

源蔵は答えない。

ただ、竹刀を構え直す。

次の瞬間。

沖田の踏み込みが変わった。

さらに速く。

深く。

鋭く。

(来る……!)

突き。

一直線。

――かすめる。

源蔵の頬を、刃が撫でた。

「っ……!」

綾が声を上げる。

血が、一筋。

「避けますか」

沖田が笑う。

「では――」

次は、斬る。

空気が変わる。

一瞬。

ほんの一瞬。

――“間”が消えた。

新兵衛の目が見開かれる。

(……今のは……)

何かが違う。

だが――

その次の瞬間。

さらに違うものが起きた。

源蔵が、動いた。

いや――

動いていない。

(……え?)

綾の視界に映る。

そこにいるのに。

いないような。

(何……今の……)

沖田が踏み込む。

その“前”。

ほんのわずかなズレ。

その瞬間に――

――バシン!

乾いた音。

世界が止まる。

沖田の動きが、止まっていた。

竹刀が、ぴたりと手元に触れている。

沈黙。

風が戻る。

源蔵が言った。

「一本だ」

静かな声。

だが、重い。

綾が震える声で呟く。

「……今の……何……?」

見えなかった。

完全に。

沖田が、ゆっくりと息を吐く。

「……今のは……」

言葉を探す。

そして、笑った。

「参りました」

あっさりと。

だが、その目は本気だった。

刀を納める。

「面白すぎますよ、あなた」

源蔵は何も言わない。

ただ竹刀を下ろす。

沖田が続ける。

「次は、もう少し準備してきます」

一歩、下がる。

「副長にも伝えます」

その言葉に、新兵衛の目が細くなる。

(……来るか)

沖田は振り返る。

「また来ます」

それだけ言って、去っていった。

静寂。

数秒後。

「勝ったあああ!!」

綾が叫んだ。

「すごいすごいすごい!!」

「当然だ」

源蔵は淡々と言う。

「かっこつけないで!」

「つけていない」

龍馬が笑う。

「いやあ、見事じゃったのう」

「見てるだけでしょ!」

「それが楽しいんじゃ」

わいわいとした空気が戻る。

だが。

新兵衛は、ただ一人、黙っていた。

(……今の間)

思い出す。

あの、一瞬の“ズレ”。

(あれは……)

言葉にならない。

だが、確信だけはあった。

(ただの剣ではない)

風が吹く。

京の空に、新たな波が立つ。

竹刀一本の老人。

その存在は、ついに“新選組”に届いた。

戦いは――

次の段階へ進む。

(続く)

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