第6話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第6話 天才剣士、再来

朝。

いつもと同じはずの道場。

だが、空気が違った。

「――礼!」

「はいはい!」

綾が頭を下げる。

動きは以前よりも整っている。

「……少しはマシだな」

「“少し”って何よ!」

いつものやり取り。

だが――

縁側に立つ久我新兵衛の目は、外を見ていた。

「……来るぞ」

低い一言。

綾が振り返る。

「え?」

そのときだった。

「約束通り、来ましたよ」

声。

静かに。

いつの間にか、そこに立っていた。

柔らかな笑み。

だが、前回とは違う。

空気が、重い。

沖田総司。

綾の背筋に、ぞくりとしたものが走る。

「またあんた……!」

沖田は軽く首を傾げる。

「今日は、ちゃんと試しに来ました」

「試すって――」

言い終わる前に、綾は前に出ていた。

「今度は私がやる!」

新兵衛が何か言おうとするが、止める。

綾の目が違う。

「ほう」

沖田は少しだけ楽しそうに笑った。

「では」

刀が抜かれる。

静かな音。

綾は竹刀を構えた。

(前より……見えるはず……!)

踏み込む。

速い。

だが。

「良くなってますね」

声が、すぐ横から聞こえた。

「っ!?」

いつの間にか、懐に入られている。

見えなかった。

「でも――」

喉元に、刃。

「まだ、足りません」

止まる。

動けない。

綾の額に汗が流れる。

(全然……違う……)

「綾、下がれ」

低い声。

源蔵だ。

綾は悔しそうに歯を食いしばりながら、一歩下がる。

「……くそ」

沖田がゆっくりと視線を移す。

「あなたですね」

源蔵は竹刀を肩に担いだまま、答える。

「そうだ」

「では」

沖田が構える。

その瞬間。

空気が変わった。

綾が息を呑む。

(……前と違う)

張り詰める。

音が消える。

動いた。

――速い。

見えない。

だが。

――バシン!

乾いた音。

竹刀と刀がぶつかる。

源蔵は、最小限の動きでそれを受けていた。

(……見えてる?)

綾の頭が追いつかない。

沖田の連撃。

一閃。

二閃。

三閃。

すべてが速い。

だが、当たらない。

源蔵は、ほんのわずかに体をずらすだけ。

「……面白いですね」

沖田の笑みが深くなる。

次の瞬間。

踏み込みが変わった。

速さが、もう一段上がる。

(来る……!)

綾の心臓が跳ねる。

突き。

一直線。

速い。

――かすめた。

源蔵の頬に、細い傷が走る。

「……」

空気が凍る。

(当たった……!?)

ほんのわずか。

だが確かに、触れた。

沖田の目が細くなる。

「今の、避けるんですね」

源蔵は何も言わない。

ただ、竹刀を構え直す。

(速いな)

わずかに、息を整える。

次の瞬間。

源蔵が動いた。

踏み込み。

――バシン!

乾いた音。

だが。

沖田の体が、わずかにずれていた。

完全には入っていない。

「……今のも、面白い」

沖田が楽しそうに言う。

互いに距離を取る。

静寂。

綾が震える声で呟く。

「……何これ……」

見えない。

理解できない。

ただ、二人だけが分かっている。

新兵衛が目を細める。

(……あの間)

一瞬の“空白”。

(まさか……)

だが、言葉にはしない。

沖田が、ふっと息を吐いた。

「今日は、このくらいにしておきます」

刀を納める。

「え!?」

綾が叫ぶ。

「なんで!?」

沖田は振り返らない。

「十分、分かりましたから」

そのまま歩き出す。

そして、少しだけ顔を向けた。

「あなた、普通じゃない」

源蔵に向けた言葉。

「次は――」

一瞬の間。

「ちゃんと斬りに行きます」

そのまま去っていく。

静寂。

綾が源蔵を見る。

「今の……当たってたよね……?」

源蔵は短く答えた。

「かすりだ」

「十分怖いんだけど!?」

そのとき。

「いやあ、ええもん見せてもろうた」

聞き慣れた声。

振り向くと、男が立っていた。

「また来たの!?」

綾が叫ぶ。

男――坂本龍馬は笑う。

「ええ勝負じゃったのう」

「全然笑えないんだけど!?」

龍馬は肩をすくめる。

「ほれ、これからもっと面白くなるぜよ」

源蔵は竹刀を肩に担いだ。

「そうか」

短い一言。

だが、その目はわずかに細められていた。

京の空気が、変わる。

戦いは、まだ終わらない。

(続く)

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