第4話

令和の爺ちゃん剣士、幕末で無双してました〜竹刀一本で新選組を圧倒〜

第4話 道場破りと京の噂

「――礼!」

「はいはい分かったってば!」

朝の道場に、今日も騒がしい声が響く。

綾が渋々と頭を下げる。

以前よりはマシだが、まだ雑だ。

「浅い」

「うるさい!」

仲村源蔵はいつものように淡々と告げ、竹刀を構えた。

「来い」

「今度は当てるからね!」

綾が踏み込む。

――バシン!

「痛っ!」

「大きい」

「またそれ!?」

今日も変わらない光景だ。

だが、違う点もあった。

「……今の、少し早かったな」

「え?」

源蔵の一言に、綾が目を丸くする。

「ほ、本当!?」

「ほんの少しだ」

「ちょっとくらい褒めなさいよ!」

口では怒鳴りつつも、顔は明るい。

その様子を、縁側から久我新兵衛が見ていた。

(……変わってきている)

確実に。

動きが洗練されている。

(あの老人の影響か)

静かに息を吐く。

そのとき。

道場の外から声が聞こえた。

「ここか……噂の道場は」

ざわり、と空気が変わる。

土間に現れたのは、一人の男。

三十代ほど。

無駄のない体つき。腰には刀。

ただ立っているだけで分かる。

(強い)

綾の背筋に冷たいものが走る。

男はゆっくりと口を開いた。

「竹の棒で侍を倒す老人がいると聞いた」

視線が、源蔵に向く。

「その剣、見せてもらおう」

道場破りだ。

綾が一歩、前に出る。

「私がやる」

新兵衛が止めようとするが――

「やらせろ」

源蔵が言った。

新兵衛が目を細める。

「……いいのか」

「問題ない」

短い返事。

綾は竹刀を握り直した。

(やれる……やるしかない)

男が刀を抜く。

静かな音。

「手加減はせんぞ」

「こっちもよ」

強がりだ。

だが、退かない。

踏み込む。

速い。

(来る!)

綾は“見る”。

足。

肩。

刃の軌道。

(今!)

――バシン!

手応え。

男の腕がわずかに揺れる。

「……ほう」

男の目が変わる。

(当たった……!)

綾の心が跳ねる。

だが次の瞬間。

空気が変わった。

「少しはやるようだな」

低い声。

本気。

踏み込みが速くなる。

重い。

鋭い。

(速い……!)

対応が追いつかない。

弾く。

間に合わない。

「甘い」

刃が迫る。

(――だめ……!)

そのとき。

「下がれ」

声がした。

同時に。

――バシン!

乾いた音。

気づけば、男の刀がわずかに逸れていた。

源蔵が、そこに立っている。

「……今のは」

男が目を細める。

源蔵は答えない。

ただ一歩、前に出た。

「続けるか」

静かな問い。

男は数秒、源蔵を見つめ――

ふっと息を吐いた。

「……やめておこう」

刀を納める。

「噂以上だ」

綾が目を見開く。

「え、終わり!?」

「十分だ」

男は踵を返す。

去り際、振り向いた。

「京で噂になっている」

「竹刀で斬らずに勝つ老人」

その視線が、源蔵に刺さる。

「面白い」

それだけ言い残し、去っていった。

静寂が戻る。

綾が振り返る。

「今の何!?」

「打っただけだ」

「だから見えなかったんだけど!?」

源蔵は竹刀を肩に担ぐ。

「長いと危ない」

「またそれ!」

縁側から、新兵衛がゆっくりと立ち上がる。

「……綾」

「なに?」

「続けろ」

「え?」

新兵衛は源蔵を見る。

一瞬の沈黙。

そして。

「……教えてやれ」

綾が固まる。

「え、えええ!?」

源蔵は即答した。

「断る」

「なんでよ!!」

道場に叫びが響く。

そのとき。

「相変わらず賑やかじゃのう」

聞き慣れた声。

振り向くと、例の男が立っていた。

「また来たの!?」

綾が叫ぶ。

男は笑う。

「ええやないか」

そして、にやりと源蔵を見る。

「噂、広がっちゅうぞ」

その男――坂本龍馬は、楽しそうに言った。

「そのうち、厄介なんが来るぜよ」

風が吹く。

京の町に、少しずつ広がる噂。

竹刀一本の老人。

その存在が――

やがて、大きな波を呼ぶ。

(続く)

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