第47話 砂漠の『砂嵐国家』と、静電気の魔王

 湿気とカビを物理的に乾燥し尽くしたクリーン・スカイ号が次に向かったのは、打って変わって極度の乾燥地帯、砂漠の王国「ザラザラ」だった。ここは絶え間ない砂嵐が吹き荒れ、精密機械はおろか、人間の喉さえも一瞬でやすりをかけたように削り取る、荒廃した黄金の地だ。


「……陛下、目が。目が開けられません。おまけに、先ほどから私の髭がバチバチと火花を散らし、逆立っております」


 バルガスが、静電気でアフロのようになった頭を抱えて報告に来た。


「……静電気か。……事務官にとって、冬の乾燥と静電気は天敵だ。大事な書類に触れた瞬間に火花が飛んで穴が開いたら、誰が責任を取るんだ」


 俺は、アイゼン特製の「鋼鉄製ハンコ押し機」に触れるたびに「バチッ!」と弾ける衝撃に、本気で殺意を抱いていた。


 1

 クリーン・スカイ号がザラザラの王都「オアシス・ゼロ」に不時着気味に着陸すると、出迎えたのは、全身を砂避けの重装備で固めた国王サジン五世だった。


「……おお、魔王殿。よくぞこの砂地獄へ……。ご覧の通り、我が国の役所は砂に埋もれ、ペンを走らせれば静電気で紙が燃え、印鑑をつけば砂粒が混じって、すべてが『ザラついた無効票』と化してしまいました……」


 王が指差した先には、砂丘の一部と化した役所があった。扉を開けるたびに砂がなだれ込み、中の職員たちはゴーグルをして、静電気で張り付く書類と格闘していた。


「……これは非効率の極致だ。……くくく、魔王様! この摩擦エネルギーの蓄積……、これを利用すれば、新しい発電システムが作れるかもしれませんぞ!」


 エドワードが、摩擦で髪を逆立てながら砂を顕微鏡で覗いて笑った。


「……研究は後よ。……まずはこの『砂の浸食』を止めなきゃ。……魔王様、この国の砂、すべて『物理的に吸着』しましょう。……私の計算機が、砂を噛んで動かないのは許せない!」


 テトラが、ジャリジャリと鳴る算盤を投げ捨てて激怒した。


 2

「……リリナ、アルス、出番だ」


「はい、陛下! 特製『グリセリン配合・静電気防止散水剤』、200トン投入しますわ! これで砂を重くし、空中の電気を逃がして、しっとりとした事務環境を取り戻します!」


 リリナが、霧吹きのような巨大ノズルを構えて宣言した。


「……俺は、あの役所を埋めてる砂を、物理的に掻き出すだけだ。……おい、騎士団! 静電気で鎧が張り付いても根性で動け! 砂一粒残さず、外の砂漠に送り返してやる!」


 アルスが、巨大なスコップを担いでバチバチと火花を散らす騎士たちを鼓舞する。


 3

『あはは! 見て、アストレア! 魔王様が、世界で一番巨大な「加湿器」兼「掃除機」になろうとしてるわ! 砂まみれの事務なんて、誰もやりたくないものね!』


 雲の上で、ノルンが面白そうに砂嵐をかき回している。

 彼女たち女神は、この「乾燥した地獄」が、魔王の「潤いのある合理性」によって鎮められる瞬間を、一級のエンターテインメントとして観測していた。


『ねえ、魔王様。いっそのこと、砂を全部「金粉」に変えてあげようか? 経済が爆発して、事務が100倍忙しくなるかもしれないけど!』


(……、余計な供給過多を引き起こすな。……安定した通貨価値こそが、国家(事務)の基盤だ)


 4

「……全砲門、開け! ……ただし、撃つのは弾丸じゃない。……魔王領特製『超微細・イオンミスト・コーティング』だ! 都市全体を、一粒の砂も寄せ付けない『静電遮断ドーム』で包んでやれ!」


 ドォォォォン!!

 クリーン・スカイ号から放たれたミストが砂嵐を中和し、空中を舞っていた砂が「しっとり」と地面に落ちていく。

 一瞬にして視界が晴れ、砂に埋もれていた役所が、本来の白い石造りの姿を現した。


「……ああ、書類が。書類が手に張り付かない! バチバチしないぞ! 砂を噛まずにハンコが押せる!!」

 国王が、潤いを取り戻したペンを走らせて涙を流した。


 俺は、アース(接地)を完璧に施した「鋼鉄製ハンコ押し機」を役所のど真ん中に設置した。

「……サジン国王。……掃除の後は、防砂だ。……二度と砂を入れない『二重扉(エアロック)構造』の建築基準法を、テトラが今から草案する。……今夜中に全て暗記しろ」


 ザラザラの国に、数百年ぶりの「静かな凪」が訪れた。

 俺の視察旅行は、ついに摩擦力すらも事務的に制御し始め、世界の隅々まで「滑らかな運営」を広げていく。


「……。……次は、お前のその『乾いたジョーク』も、潤いを与えて面白くしてやろうか?」


 俺の皮肉を乗せて、クリーン・スカイ号は、砂の落ち着いたザラザラの空を、次なる目的地へと向かった。

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