第41話 魔王領の『休日』がついに制定されるが……?
騎士団までもが清掃員として雇用され、魔王領のインフラ整備は劇的な速度で完了した。もはやこの島に「汚れた場所」はなく、同時に「やるべき仕事」も一時的に底をついた。
「……陛下、これです。ついにこの時が来ました」
バルガスが、うやうやしく一枚の羊皮紙を差し出してきた。そこには、俺がこの島に上陸した初日から夢見ていた、至高の二文字が躍っていた。
『休日』。
「……全領民、および全職員。明日は一切の労働を禁ずる。……いいか、バルガス。一歩でも外に出たら減給だ。俺も寝る。何があっても起こすな」
俺は枕を抱きしめ、勝利を確信して自室の鍵を閉めた。
1
翌朝。静寂。……のはずだった。
「魔王様! 起きてくださいまし! 本日は『休日』ですわよ!」
扉の外から、シア王女の元気すぎる声が響く。
「……シア。休日は、寝る日だ。帰れ」
「何を仰いますか! 休日とは『普段できない有意義な活動をする日』ですわ! 私、リリナ様やアルス様と相談して、領民全員参加の『大レクリエーション大会』を企画いたしましたの!」
俺は絶望して布団を被った。
外からは、既にどんちゃん騒ぎの音が聞こえてくる。捕虜の騎士たちが、日頃の掃除のストレスを解消するかのように、鎧を脱ぎ捨てて綱引きに興じているらしい。
2
「……おい、陛下。寝てる場合か。巡礼者たちが『魔王の寝顔を拝むまで帰らない』って、城門の前で座り込みを始めたぞ」
アルスが、窓から不法侵入してきやがった。手にはバドミントンのラケットのようなものを持っている。
「……お前ら、休ませろと言っただろ。……俺の有給休暇を、勝手にイベントで埋めるな」
「……諦めろ。テトラが『休日の消費行動による経済効果の測定』とか言って、島中に屋台を出させまくってる。……お前が顔を出さないと、収支報告書(ログ)が完成しないんだとよ」
テトラ。あの計算バカ。休日すらも「データの採取場」に変えやがった。
俺はフラフラになりながら、広場へと引きずり出された。
3
『あははは! 見て、魔王様! 目の下に隈を作ったまま、玉入れに参加してるわ! シュールすぎる!』
空からノルンの爆笑が降り注ぐ。
彼女たち女神にとって、俺が必死に守ろうとした「静寂」が、自ら育てた領民たちの「活気」によって踏みにじられる様子は、この上ないご馳走だった。
『ねえアストレア、見てよ。あの騎士たち、綱引きのロープを石鹸で磨きすぎて、誰も力が入らなくて滑ってるわ。……平和ねぇ』
(……だめがみ。……これのどこが平和だ。俺の精神的疲労は、残業中より加速してるぞ)
4
結局、日が暮れるまで、俺は「魔王と握手・写真撮影会(有料・テトラ考案)」の椅子に縛り付けられることになった。
夕闇が迫る頃、ようやく解散となった広場で、俺は燃え尽きた灰のようにベンチに横たわった。
「……バルガス。……明日は、『休日の疲れを癒すための休日』を制定しろ」
「ははっ。ですが陛下、領民たちは『次はいつですか!』と目を輝かせておりますぞ。……どうやらこの島の人々にとって、陛下と過ごす賑やかな時間が、一番の『加護』になっているようですな」
俺は、遠くで片付けをしながら笑い合うアルスやシアたちを眺めた。
神の奇跡を捨て、自分の手で生活を築いた彼らは、今や「休むこと」すらも全力で楽しむ強さを手に入れていた。
「……だめがみ。……俺の休日は、いつになったら本当の意味で訪れるんだ?」
俺のぼやきを乗せて、夜風が優しく吹き抜けた。
どうやら魔王領の『休日』は、どんな戦争よりも忙しく、そして騒がしいものとして定着してしまったらしい。
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