スポットライト

 あの公園の前まで来て、色々不安が浮かび上がってきた。

 もし違う場所にいたらどうしよう? 学校とか、それこそ教室に残っていたら――って、染谷が昇降口を出ていったのは見たから、きっと合ってる。

 裏道を通ってきたから、染谷よりは早く着いているはず。誘った本人が遅れるとかサイアクだし、早く来れてよかった。

 

 公園の敷地に入ることを少し躊躇する。

 いや、ここでなに躊躇ってるんだ、僕。ここまで来たんだし、ここで引き返したら前と同じだ。


 ふー、と息をついてから、地面を踏みしめてベンチのあたりに行く。

 予想通りというか、作戦通りというか、まだ染谷は来ていなかった。そのことに少し安堵しながら、リュックをわきに置いた。


 一分、二分、と時間が過ぎていく。公園の時計と、自分の腕時計をチラチラと見ながら、横目で公園の入り口の方も確認する。


 それから五分、十分、二十分と時間が過ぎて、さすがに来ないかな、と思った。

 もしかしたらあの時の答えは「いいえ」だったかも? いや、それはちょっと文脈的におかしいか……?


 あああああ、と頭を抱えたくなる衝動を抑え、その代わりにぐるぐると頭を悩ませる。僕ってこんなめんどくさい性格だったっけ。


 でも、移動教室に遅れそうだった僕に声をかけてくれて、僕の言葉に何かしらの返事をしてくれたってことは、嫌われては、ない……のか? そう思ってもいいのか……?


 しっかりしろ、藤森亮。


 あと十分。それだけ待って来なかったら、今日はもう帰ろう。

 

 そう自分に言い聞かせたのだけれど、やっぱり落ち着かなくて。

 立ち上がろうとした次の瞬間。


「ごめん、待たせた」


 と、いつも通りの声が聞こえて。

 あっと顔を上げたら、こちらに向かって来た染谷と目が合った。

 目が合うのは、本当に久しぶりだった。


 嬉しいような、泣きたいようなそんな何とも言えない気持ちに見舞われて、ぐっと拳を握る。


「となり、座っていい?」


 うん、と頷くとリュックを抱えるようにして座った。

 一連の流れを見てから、「となり座っていいよ」と言わなかったことに後悔し始める。なんて気が利かないんだ、僕。今日は失敗だらけだ。でも、後悔はしていない。


 もう、逃げ場はない。というより、逃げるつもりはない。

 

「……染谷」


 久しぶりに呼んだその響きに視界がぐっちゃになった。

 声が震えた。


 染谷が視線をこっちにやる。

 何も言わなかった。聞いてくれるんだ、と思った。


 けど、さっき必死に考えた話したいことは、あっさりと忘れてしまって。

 何も言わない僕に苛立って帰っちゃうかもしれない、と思い、無理やり口を開く。


「こ、この前のことなんだけど……。しっかり謝りたくて」


 パチリ、と目が合う。

 詰まりそうになる言葉を、何とか押し出す。


「ごめん」


 結局出てきた言葉は、情けないくらいシンプルで。

 でも一番伝えたかった言葉で。

 

 染谷は目を細めて、首を傾げた。

 

「なんで?」


 なんで?とは。

 僕の考えが伝わったのか、染谷は「謝る必要ある?」と追加する。


 確かに、謝らなきゃ、と思っていたけど、なんでだろう。

 少し考えてから、答えが出た。


「……追えなかったから」


 染谷が驚いたように目を開く。

 

「話、ちゃんと聞きたかった。でも、聞けなかったから」


 ごめん、ともう一度謝る。

 静かになった公園に、さらりと風が抜けていった。


「あと、」

「俺も」


 沈黙を破ろうとした僕と染谷の声が思いがけず重なる。

 先にいいよって促すと、染谷は少し悩んだようなしぐさをした後、口を開く。

 

「俺も、逃げてごめん。藤森は何も悪くないのに、強く言っちゃったし」


 少し間を開けて、僕の方を見た。


「正直、藤森が追ってきたら、どうしようとか思ってたし」


 あんなこと言っちゃって、どんな顔で何を話したらいいのかわからなかった。


 染谷はそんなことを言いながら優しく笑った。


「……え」


「だから、おあいこ」


 そう言って、軽く肩をすくめる。


 それから、染谷は僕の方を見て僕の話を促してきた。


「今日、急に誘ってごめん。もう一度、しっかり話したかった」


 前みたいに、逃げないで。

 

 そう続けると、染谷はふっと柔らかく笑った。


「いいじゃん」


 その一言で、ずっと胸の奥に溜まっていた何かが軽くなった気がした。

 一緒になって夕陽に照らされたあの時を、あの瞬間を、僕らはきっと忘れないだろう。

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スポットライト つきレモン @tsuki_lemon

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