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「青春……ユニバース……!?」


「あぁ、そして各物語が健全で『価値ある青春』を果たせるよう支援する、それが我々『青春保全センター』の目的というわけだ。そして、我々はそんな世界に生きる『モブ』というわけだ。」


「……つまり俺は『モブ』という事なんですか?」


「あぁ、その通りだ。」


「その……なんで俺をスカウトするんですか?」


「良い質問だ。実のところ『誘う相手は、モブなら誰でも良い』というわけでもない。見てみろ。」


センパイは再びスマホを俺の目の前にかざし、先ほどの動画を改めて見せながら、ネタバラシを語り始める。


「これはな、出来るだけ雰囲気を作るために中部支部の交通課が見事な手腕で、人の流入を徹底的に防ぎ、代わりにセンター職員がその場を歩いていたんだ。ほら、全員メガネをかけているだろ?」


「まさか、ここに写っているメガネをかけた人たち全員センター職員という事ですか?」


「そのはず、だったんだが……」


そういうと、センパイはあるタイミングで一時停止させて、ある一点を拡大する。

そこには、気に留めない者達に紛れて『今日入学した学校の制服を着た俺』が映り込んでいた。


「どういう訳か『君』がいたってわけだ。」


動画内の俺の素振りは、ツカツカと歩いていく一方で、その一連のやり取りを間違いなく見聞きしている。


であれば、自分の事だ。

こんなドラマチックな光景、横目にでも見ていたとしても、否応にでも覚えているはず……


だが、俺は『その光景』を覚えていない……

というかなんで『今日』入学した学校の制服を……?


戸惑う俺を他所に、センパイは話を続ける。


「普通のモブであれば、スマホでの撮影くらいは試みるものだ。たとえモブだろうと『青春の恩恵にあやかりたい』と誰しも思っていることだからな。」


「偏見がすごい。」


「だが君は撮影しないどころか、興味すら示さなかった……!」


(記憶に残っていないけど、なんか褒められているようで嬉しいな……)


「まさに『青春不適合者』の証……!」


「勧誘する気あります?」


「コレで『なぜ誘われたか』理解できたか?」


「『ケンカ売ってるんだろうな』って事だけは理解しました。」


「正直なところな……人手が足りないケースも少なくなくて困っているんだ……」


「だとしたら、言葉選びを間違えましたね!もうなんでもいいから、早く解いてください!『自由意志を持てるようになった身』として、とりあえず自由にやらせて貰いますから……!」


俺は吐き捨てるように『自由宣言』を済ますと、少ない可動域を活かして、拘束から逃れようとし始めた。


センパイは暴れる俺に対して「あ、ちょっ、暴れると危ない……!」と止めにかかる。

しかし『抜け出せるわけがない』とたかを括っているのか、あまり積極的に止める雰囲気ではなかった。

その様子が余計に俺の苛立ちを加速させた。


「だいッたい!急に『青春ユニバース』だとかッ、『テメェはモブ』だなんて言われてッ!『ハイそうですか』って納得するなるわけがッ無いんですよッ!って、ウォア!?」


「だから、危ないって言ったのに……人の話を聞かないから……」


「これでもアナタよか、聞き分けがあるほうだって自負してるんですけど……!」


痛みを堪えながら嫌味をいう俺に、センパイはスッと倒れた俺の前にしゃがみ話しかける。


「認めないんだっていうなら、一つ質問なんだが……」


「なんですか……!?」


「君の名前を教えてくれないか?」


「そりゃ名前は……俺の名前は……ア、アレ……!?」


名前が思い出せない……それどころか、そもそも『あった記憶』すら無い……!?


「だから言っただろう。ここは『青春ユニバース』……我々のようなモブに『名前』なんて贅沢なものは無いんだよ。」


どこからともなく吹き込む風が、センパイの髪を靡かせる。

『名前が無い』という事実は、『生きる意味を探すのは無意味だ』という発言を裏付けるのには十分だった。


「まぁこの際だ。センターのエージェントになるかどうかは、一旦後で決めていいから、1週間ほどこの世界を好きに過ごすと良い。」


ショックを受ける俺に、センパイは優しく話しかける。


「良いんですか……?」


「ただ、スマートグラスはできるだけ外さないようにな。」


「スマートグラスって、今かけているこれのことですよね?……なんでですか?」


「外したまま過ごすと、この世界の持つ修正力で脳の構造が『モブ』の状態に戻って、また自我を失ってしまうからな。」


「待って。じゃあいま俺、コイツが放つ電波やらで『脳を弄られ続けている』ってことですか……!?」


「私の場合は脳の矯正は完了しているから、当分なしでも問題はない。安心して借りるといい。」


「『脳を矯正』……とりあえず『外さずに過ごせ』以外の話は、聞かなかったことにしますね。」


「ともあれ、センターは十分な報酬を用意した上で君の加入を待っている。私個人としても、一緒に働ける日を心待ちにしているからな。」


「えっと……その……ありがとうございます……!」


『居場所はあるからな。』

そう言ってもらえたような気がして、俺は少し泣きそうになりながら礼を言った。




かくして俺は拘束から解放され、自由の身となった。


(『自由に過ごせ』といわれても、いまいちピンとこないな……ただのモブだった頃の記憶が少しあるから、一先ずそれを参考にして過ごしてみるか……)


そう考えながら、教室を後にしようとする俺に「あ、そうだ!ちょっと待ってくれ!」と教室を片付けていたセンパイに呼び止められた。


「……なんですか?」


「自由に過ごしてもらうのは全然構わないが、くれぐれも『マイファン』には手を出すなよ……?」


「マイ……なんですか?」


「スマホアプリ『魔法少女アンガーコントロール マインド オブ ファントム』のことだよ。略して『マイファン』。コレには、絶対に手を出すなよ……!」


「はぁ……?」


「分かったな……!?『マイファン』には、絶ッ対に手を出すんじゃないぞ……!?」


「わ、分かりました?」


今日一番の圧をかけてくるセンパイに困惑しながらも『マイファンには手を出さない』という言葉を胸に刻み、俺は改めて教室を後にした。




それから記憶を頼りに自宅(アパートのワンルーム)に帰った俺は、学校から支給されたばかりの教科書の整理や部屋の掃除、夕食を簡単に済ませ、手持ち無沙汰になっていた。


(寝るにはまだ早いけど……ボーッと過ごすのもな……)


自我を持ったばかりに抱いてしまった『暇』は、今日あったアレコレを思いだすには十分な理由だった。


『『マイファン』には絶対に手を出すなよ?』


その中でふと、センパイの言葉が蘇る。


(『手を出すな』と言われたけど……少しくらいなら大丈夫だろ……)


そう考えた俺は暇つぶしがてら、『マイファン』のダウンロードをすべく行動を始めた……

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