第二章:モブ共の最初の記憶
1-2-1
桜がとっくに散ってしまった春の日。
無事高校の入学式を終え、帰路に着こうとした矢先の事だった。
教室から出てすぐ、やけに身長の高く長い黒髪が特徴的な猫背の女に「入学に際しての事でちょっと聞きたい事があるから、ちょっと付き合ってくれないか?」と声をかけられ、言われるがままついていく。
しかし到着した先は職員室などではなく、適当な空き教室であり、女は後から入ると扉の内鍵を閉めて自ら共々閉じ込めた。
そうして適当な席に座らせたのち、手足を結束バンドで拘束する。
次いでカバンから何かを出そうと探し始める。
しかし、「忘れた……」とガクリと肩を落とす。
「仕方ない……」
女は徐にかけていた大きな丸メガネを外し、こちらにかけ直した。
女は準備を一通り終えると、それまで猫背だった背中をグイーッと力を入れて伸ばした後「ヨシ……!」と一言言って力を抜く。
ジロリとこちらに視線を向けると、「自我構築プログラム開始」と声をかけた。
すると途端に、スゥと霧が晴れていくような感覚を覚える。
自らの思考が、視界が、感覚が、鮮明になる。
状況が整理され、客観的な視点が持てるようになる。
そうか……今“俺”は……
「なんで拘束されているんですか!?」
「うん、上手くいったな。初めまして。私は青春保全センター中部支部 傷与係 係長の“センパイ”だ。気軽に“センパイ”と呼んでくれ。」
「いやいや、なんで拘束されてんですかって聞いているんです!あなたが拘束したんですよね!?」
「“あなた”なんて寂しいことを言ってくれるなよ、“セ・ン・パ・イ”と言ってくれたまえ」
「ウワァ、その姿で言われると、可愛さよりも悍ましさが勝んですね。初めて知りました。」
「ヒドい!」
「とにかく!拘束を解いてください!」
「そんなことより単刀直入に言おう、君には『青春保全センター』に入ってもらい、エージェントとして働いてもらいたいと思っている。」
「聞いちゃいねぇ!!!」
「何か質問は?」
「ウソだろ?なんで淡々と『質問を聴く姿勢』を作れるんだよ……?」
「だって、何か質問がありそうだったから……」
「……もしかして『俺が悪い』って事になってます?逆だよね?『聴く権利』を行使するのは、こっちの権限ですよね?」
「質問が無いなら、話を進めたいんだが……」
「えぇい、あります、あります!『青春保全センター』?ってなんですか?この拘束と関係あります?そもそも拉致して、どうするつもりなんですか!?」
「……すっごい質問振るじゃん。」
「だから……!……いや普通にそれは俺が悪かったです。」
「おぉ、急に素直。」
「……まず『青春保全センター』ってなんなんですか?」
「そうだな……実例を見てもらった方が手っ取り早いな。この動画を見て欲しい。」
そう言って“センパイ”はスマホを取り出し俺の目の前にかざす。
センパイが見せてきた動画、それは……
『ヨウコ!!!』
『タックン……!!!』
とある駅前で人目を憚らず、制服を着た男女が情熱的に互いの名前を呼び合い抱きしめる『青春の1ページ』であり、一見すると『ドラマの撮影現場のようにも見える』動画であった。
しかし、突如始まったその異様な光景に対し、誰も気に止めることなくスルーしていく。
「これが、我々『青春保全センター』の仕事の一つだ。」
「いや、何も分からなかったのですが……?」
「だから『彼らのような若人の青春を導く』……それが『青春保全センターの活動』だと言っているんだ。」
「……それになんの意味が?」
「そりゃ君、愚問というモノだよ。『我々はなぜ生きているのか?』という問いに答えを求めるようなモノだ。」
「そこまでの規模感の答えを期待したわけでも無いですし、そもそも『生きる理由を求める行為』自体は『愚かな問い』だとは思いませんが……」
「いや、そうでもないぞ?ほら、外を見てみろ。」
「ウワァ!?ちょっと、いきなり椅子を動かさないで……って……!?」
空き教室の窓からは、校舎や校庭、それらを抜けた先には住宅地や山々が、拘束されたままでも見えた。
よく見れば、
渡り廊下では早速部活に勧誘活動を初めている弱小部活に、
体育館裏ですでに告白を行い玉砕した芋男と高嶺の花、
校庭では妙に作画が濃い野球部が集団でランニングをしている一方で、
校内戦でシュートを決め女子から黄色い声を受けるサッカー部エースの姿が見える。
さらに住宅地では、
光の軌跡を残しながら屋根伝いに逃走劇を繰り広げる超能力者らしき集団に、
山の麓付近では巨大ロボ?同士による戦闘が繰り広げられている。
「なんだ……これ……!?」
今まで気づけていなかったことも含め驚愕している俺の横で、センパイはこの光景の正体を淡々と明かす。
「見ての通りだよ。私たちが生きる世界は、爽やか、熱血、異能にロボ……あらゆる『青春物語』が交錯する世界『青春ユニバース』なんだよ。」
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