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1週間後―――
放課後、貰ったスマートグラスを介して集合場所を伝えられた俺は、学校から程近い神社でセンパイと再会した。
スペアだろうか、センパイの顔には今俺がかけているスマートグラスと同じ型のスマートグラスをかけていた。
「さて、この1週間どうだった?」
「率直に言って……羨ましかったです。」
「羨ましかった?」
「はい……悩んで泣いてそれでも歩き出す。皆が皆キラキラとしていて、精一杯自分の青春を謳歌している。『その輪の中に入れたなら、どんなに楽しいだろうな』と思いました。」
「そうか……ただ、我々は……」
「分かっています。俺はモブで、その輪に入ってはいけない。あくまで第三者として、時に盛り上げ、時に背景となり、彼らの行く末を見守らなければならない……ですよね?」
「……そのとおりだ。」
「でも……それでも良いんです。1週間過ごしてみて分かったんですけど、俺は俺の性分的に自分自身で『青春』というものを作って、謳歌することはできないようなんです。」
「……。」
「でも、誰かの青春を支える活動を通して『俺なりの青春』を感じることは、できるんじゃないかと……そう思ったんです。」
「それはつまり……「センターで働きたい』ということでいいんだな?」
「えぇ。ぜひ『青春保全センター』で働かせてください。」
「分かった……なら、君にはコレをあげよう。」
そういうとセンパイは、カバンからメガネケースを取り出した。
「……それは?」
「いつまでも、私のスマートグラスをかけているにも行かないだろう?だから『君専用のスマートグラス』をこちらで用意させてもらった。」
センパイが開けて中を見せる。
そこには、センパイのカジュアルなスマートグラスとは対照的な、スポーティな印象がある黒ぶちのスマートグラスが入っていた。
「……良いんですか?」
「良いも何も、職員全員に支給される言わば『装備』だ。大切に使ってくれよ。」
「分かりました……!」
俺は一度頷くと、早速借りていたスマートグラスを返し、俺専用のスマートグラスを手に取る。
少し震える手をいなしながら、ツルを展開させ装着する。
途端に原始的な画面の下、初期設定が次々と設定されていき、最後に『桜』と『猪』をモチーフにしたセンターのロゴが掲示され、セットアップが完了した。
セットアップが完了したのを確認したセンパイは、俺に手を差し出し声をかける。
「ようこそ『青春保全センター』へ『新人君』」
「新人君って……俺の事ですか?」
「あぁ……センターの慣例でな。新しく入った職員には、便宜上の通名として『新人君』と呼ぶことになっているんだ。気を悪くしてしまったか?」
「いえ、ただ……コレまで名前がなかったので……胸アツ展開だなと思います。」
そう言って俺は、センパイの握手に応じた。
一方で内心では、拳を振り上げ(ヨッシャアァァァァァアアア!!!無事所属できたぁぁぁぁぁぁあああ!!!)と歓喜に打ち震えていた。
その原因はセンパイから『手を出すな』と言われていた『マイファン』である。
少しだけ、少しだけ……そう思いながら初めたそれは、とんだ『底なし沼』であった。
魅力的なキャラクター、魅力的な演出、魅力的なストーリー……
それらに加えて癖になるゲームシステムが組み合わさった本作は、長らくモブとして惰性的に生き、ようやく芽生えた自我には猛毒であった。
1日目―――
「『3日間限定 新人パック』だけなら……!」
そう言いながら俺は三千円分の課金をした。
2日目―――
「ハァ……ハァ……『1日限定有償ガチャ』だけなら……!」
俺はそういいながら、一万円分の課金をした。
3日目―――
「ハァ……!ハァ……!『新イベント『煌めく笑顔の裏側』特攻 魔法少女』だけなら……!」
俺はそう言いながら**万円分の課金を……
そんな調子で課金を続けた結果、瞬く間に生活費は溶けていき、4日目の夜には『明日の食事』すらままらなくなってしまった。
6日目、すっかり習慣となったデイリー消化とイベント周回をしながら俺は、長期的な打開策を検討し始めた。
短期バイト、広告収入、臓器提供……
あらゆる副業を検討した先に、センパイの『潤沢な報酬』という湾曲した言葉が蘇ってきた。
(そうだ、コレなら……!)
すでに5日ほどロクな食事を取れていない頭で俺は『青春保全センター』への参加を決めた。
「……早速ですが、やれることはありませんか?」
「やる気も十分ときたか……それでこそ、我がセンターのエージェントだ。」
そう言いながら、ギラつく俺の目を見るセンパイの顔には『何かを見透かしたような不敵なな笑み』が張り付いていた。
こうして、俺は『課金のために金を稼ぐ』という不純な動機を『青春を擬似体験するため』というオブラート隠し、『青春保全センター』のエージェントとして働き始めることとなる。
当然、俺の不純な動機は3か月も経たずにバレ、『バイト』という半ばあだ名のような、通名が与えられることになるのだが、それはまた別の話である。
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