幕間
紅白狂奏曲!(『ヤンキー×お嬢様カップル』の一例)
白井芽衣は小柄で羊のように白くふわふわな髪の毛を持つ、どこにでもいる普通の女子高生である。
そんな彼女には一人『密かに想いをよせる男子』がいた。
その相手とは、近所に住む『結城紅希』である。
彼とは幼少の頃、いじめられているところを助けられて以来の幼馴染である。
髪を洗おうものなら時間がかかる上に、苦手なドライヤーを長時間使う必要がある。その上、櫛を通そうとすれば引っかかってその都度痛い想いをする。
それ故に白井芽衣は、自身の髪の毛がどうにも好きになれなかった。
しかし……
「おまえの髪の毛、ふわふわで気持ちいいな。」
結城紅希が発したその一言に、当時は随分と救われ、それ以来自分の髪が少し好きになった。
初めは、喧嘩っ早くそれでいて芯のある生き方をする、結城紅希の姿に惹かれ、ことある毎に彼の弁当を作ってきたり、傷の手当てを診たりしてきた。
しかし白井芽衣にとってそれらは、『幼馴染としての務め』だと考えてきた。
そんな折、転機が訪れる。
白井芽衣はお嬢様高校へ、結城紅希は不良高校へと進学先が別になったのである。
中学の卒業式に「別々なのやだぁ……」半べそをかく白井芽衣に、結城紅希は「どうせすぐ会えるんだから」と慰められた。
しかしその言葉とは裏腹に、以前のような頻度で会えることはなかった。
学校生活は、決して楽しくないわけではなかった。
新しい高校生活にも早々に慣れ、新しい友人もできた。
しかし、そういった嬉しさをいつも共有する結城紅希がいないことで、白井芽衣は尋常ではない寂しさを覚えた。
そこで白井芽衣は、入学から1か月が経過した頃ある決断を下した。
「コーくん久しぶり、これでまた一緒にいられるね!」
「芽衣……!?お前なんでここに……!!??」
「『なんで』ってそりゃ……転校してきたんだよ!」
「はぁぁぁああ!!??」
白井芽衣は、結城紅希のいる不良校へと転校したのである。
言わずもがな、番長から他校からの刺客、同じく結城紅希に想いを寄せるスケバンの台頭など……さまざまなトラブルに巻き込まれることになる。
しかしそれ以上に白井芽衣は、結城紅希と共に居られることに大きな安心と喜びを噛み締めていた。
そして迎えたクリスマス、白井芽衣は気合を入れてサプライズとして、クリスマスケーキを拵えた。
しかし、気合いをいれすぎてしまい、約束の時間に遅れてしまう。
「急がなきゃ……!!!」
運動が得意ではないなりに必死に走って結城紅希宅へと向かう最中、出会い頭に人とぶつかり、その拍子にケーキの入った箱を落としてしまう。
「あぁぁぁぁ!すみません!!!すみません!!!」
中身を確認する余裕もなく、とにかく拾って向かったものの、当然ながらケーキの形は崩れ、美味しそうと言えるような状況ではなかった。
落ち込む白井芽衣に対し、結城紅希は一番にそのケーキを口にし「すげぇ美味いじゃねぇか!」と笑った。
結城紅希が『裏表のない性格』であることを知っていた白井芽衣は、その発言に対して『気を遣われた』とは思わなかった。
しかしそれを知っててもなお、白井芽衣の心臓は高鳴った。
この時になって、白井芽衣はようやく『自分が結城紅希が好きである』ことを自覚したのである。
しかし、幼馴染同士。
今更関係を進展させることに対し、大きな抵抗を感じていた。
そこで、白井芽衣が一方的に親友認定しているスケバンのレイハと相談を持ちかけた結果、バレンタインにチョコブラウニーを送ることにした。
それから1月頃から少しづつ練習を重ねること数週間、ついに納得できる出来のチョコブラウニーが完成した。
「よし、あとは当日直前に改めて作るだけ!」そう意気込む白井芽衣であった。
しかしバレンタイン3日前、いざ材料を調達しに近所のスーパーコンビニにいくも、肝心の『チョコ』が売り切れてしまっている。
今まで経験したことのない事態に一先ず(今年はチョコを送る人が多いのかな……?)と思い込んで整合をとる。
その後も何度かチョコを買いにいくつかの店舗に足を運ぶも、どこも売り切れてしまっていた。
(どうしよう、チョコがない……!!!)
焦りながらも、それでもなんとか前日までにチョコをかき集め、14日の未明にかけてチョコブラウニーを作った。
しかし……
「ダメ……もっと美味しくできるはず……!」
納得できる出来には至らず、失意の下体力の限界もあって眠りにおちた。
そして気づいた頃には、すでに時計は10時を指していた。
急いで材料となる板チョコを買いに行こうと普段は足を運ばない店舗にも足を運んでみるも、示し合わせたかのようにチョコがない。
最悪の最悪の代案をとしていた『チョコ菓子』すらも見当たらない。
その状況に白井芽衣は(皆考えていることは同じなんだ……!)と自分なりの解釈で納得する。
夕闇が迫る中トボトボと帰路を辿る白井芽衣は(今度こそコーくんに、ちゃんと贈りたかったな……なんでいつもこうなんだろう)と『自らのどうしようもない至らなさ』を自ら攻撃し始める。
次第に自らへの攻撃は、後悔へと代わっていく。
もっと前もって用意しておけば、
少しでも早く起きていれば、
チョコにこだわっていなければ、
日が完全に落ち、急激に冷え込みが強まる。
本能的に明るさを求たのかもしれない。
電灯の灯りの下、沁み入る寒さに蝕まれ、白井芽衣の足がとうとう止まる。
すると、途端に涙が溢れてくる。
もう、どうしようもない。
想いを伝える術は失われてしまった。
そんな状況を、白井芽衣は飲み込んでしまっていた。
声を殺し、理不尽を嘆き、その場でうずくまる。
遠くでいくつもの車の走行音が、近づいては去っていくのが聞こえた。
しばらくすると、足音が聞こえてきた。
その足音は段々と近づき、やがて止まると一言「……芽衣か?」と聞き馴染みのある声がした。
反射的に顔を上げる。
そこには、戸惑う結城紅希の姿があった。
白井芽衣の泣き腫らした目を見て、深刻そうな表情に切り替わった結城紅希は「……オイ、大丈夫か?」と尋ねる。
(コーくんに余計な心配をかけちゃってる……!)
直ちに察した白井芽衣は、必死に平静を取り繕いながら答えていく。
「ち、違うの!その……ちょっと失敗しちゃって……!」
「……失敗って?」
白井芽衣の反応から結城紅希は(警戒させてしまったか……?)と判断し優しく追求する。
だが、白井芽衣にとって『結城赤希には秘密にしておきたかった事』に対する追求であった。
しばらく「えっと……あの……」と言って場を繋ぎ、なんとか秘密を隠した回答を試みる。
しかし、いくら考えても『心配をかけない』と『秘密を守る』を両立した回答を思いつかない。
観念した白井芽衣は、意を決して遠回しに事情を語り始める。
「その……チョコをね作ろうと思ったんだけど……」
「チョコを……?」
「でも、上手く作れなくて……それで……どうしても……」
その先の言葉に繋げようとしたが、どうしようもなく溢れる不甲斐なさに、白井芽衣は再び声を殺して泣き始める。
普段都合を深く考えず突っ込んでくる白井芽衣とは打って変わってしおらしい様子に、思わず結城紅希は「オイオイ、泣くな泣くな……」と狼狽える。
(何かねぇか……こう、甘いものとか……)
そう考えた折、結城紅希は先ほどやけに息を切らせた男に押し付けられた、板チョコを思い出す。
「ほら、コレやるから……元気出せ」
板チョコを差し出された白井芽衣は「これって……」と目を丸くする。
「さっき、そこで押し付けられ……」と事情を言いかけたところで白井芽衣の様子に気づいた結城紅希は「あ!?勘違いすんなよ!?」と直ちに補足する。
「女子からじゃなくて“ヤロウ”からだぞ!?とにかく、ソイツから押し付けられたんだよ。」
「コーくんのことが好きな、男の子だったんじゃない……?」
「ご、誤解だ!本当にそういうのじゃなくて、なんなら押し付けてきた上に、『向こうに行け』って意味わかんねぇこと言われて……」
普段の肝の座った様子とは打って変わり、狼狽えながら必死に弁明する結城紅希の様子に、妙に可愛らしく思えた白井芽衣は少しづつ調子を取り戻し始め、「ふふっ」と笑う。
「なんだか、いつものコーくんと違うね?」
「そ、そうか?」
「違うよ〜……それに、貰ってばかりだし……」
白井芽衣の反応に(これ以上気を使わせたくねぇな……)と考えた結城紅希は、反射的にフォローする。
「何いってんだよ。クリスマスにケーキを用意してくれただろ?」
そこまで言ったところで、結城紅希は今手元のチョコを押し付けてきた男がやや早口で言った言葉を思い出す。
(これなら、気を使わせないはず。)と考えた結城紅希は「それに……」と言葉を繋げる。
しかしその直後、冷静になった結城紅希は(いやだからといって、これは言っていいのか……!?)と言葉を詰まらせた。
妙な間を不思議に思った白井芽衣は、小首を傾げて「それに……?」と繰り返す。
白井芽衣の仕草に結城紅希は、これまでに感じたことのない『強いときめき』を感じる。
その『強いときめき』はその先の言葉を紡がせる原動力となった。
「それに……今日に関しては良いんじゃないか?……その……海外じゃ、男から女にプレゼントを贈る日らしいし。」
「……!」
『あの結城紅希が、バレンタインを意識している』
『その上、プレゼントを贈ってくれた』
これら事実は、白井芽衣に『これ以上にない幸福』をもたらすには十分な情報だった。
「だから……ホワイトデー期待してもいいか?」
「うん……!楽しみにしてて……!」
互いに耳まで赤くして、二人は4週間後の約束を交わすのであった。
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