1−4−4

特徴的な姿と声にすぐに『あの時の少女』だと気づいた俺は、念の為しばらく観察を続けた。


16時30分―――


しかし事態はまるで好転せず、少女は譫言のように「チョコ……チョコ……!」と繰り返すマシーンと化していた。

その様子に(まさか……!)と思い、残っている記録を確認する。

すると、今日一日中複数のスーパーやコンビニなどを梯子していたことが分かった。


(そもそも自転車で行ける範囲にいる者同士、生活圏内が近いから、モロに影響を受けたのか……!)


体力の限界が近いのか、歩き方はフラフラとしており、いつ倒れてもおかしくない。


(どうにかしなければ……!このままじゃクリスマスの時と同じ……いや、もうなっているけど……同じ想いをさせてしまう……!)


その思いがセンパイに連絡を試みさせた。


『はいこちら、イベント観察係』


(同じ任務についているとは言え忙しいか?)と思ったが、幸いすぐ連絡がついた。


「センパイお疲れ様です。バイトです……今少し良いですか?」


『何だ?今、バカ真面目カプの彼女側が、今になって『自分の思い』に気づいて相手に贈るチョコを手作りし始めやがったから、その動向を見守っている最中なんだが?』


「また、バカ真面目カプですか!?」


『違う、今回は『第40バカ真面目カプ』だ……って、このアマ!ガナッシュにハバネロを入れるショコラティエが何処にいる!?ックソ、乳製品コーナーの拡充を申請しておかないと……!』


「その、それで本題なんですけど……!」


『今、それぶっ込む?……それで、なにがあった?』


「ありがとうございます……!それで……」


聞く体制を作ってくれたセンパイに礼を言いつつ、俺はここ半時間で見た少女のこと、少女がクリスマスの時の少女だったこと、このままではクリスマスの二の舞なことを伝えた。


「だから、どうにかしたくて……何かしてあげられる事はないですか……!?」


『……それは自らの罪悪感から目を背けたいから……ではないのか?』


「な、何を言って……?」


『私たち傷与係の役目はなんだ?』


「『痛みある青春を与る』……です。でも、これはあんまりです……!

センターに『不良お嬢様カプ』の資料を見返しました。白井芽衣……近くの高校に通う高校1年生です。臆病すぎる一方で喧嘩っ早い性格の幼馴染、結城紅希には世話焼きたがる性格です……

高校に上がってから、自らが抱く『彼への恋心』に気付きアプローチを開始……

春から順調に関係を深めてきたものの、クリスマスでは失敗をしてしまった経験から『今度こそ!』と数週間前からバレンタインデーへ向けて準備を……」


『……それで、何が言いたい?』


「『何が言いたい』……!?

クリスマスでプレゼントを壊して、それで今度はチョコを買い占めてそれで、またあの人を困らせて……

センパイは、今の状況が本当にあの人にとっての『価値ある青春』になるって思ってるんですか!?」


『……前も言ったろ……今回の任務の目的は『ヒロインの覚醒』……

彼女を信じる事も……傷与係の役目だ。』


「でも、それって辛くないですか……!?」


会話にわずかな空白が空く。


センパイの静かな深呼吸が聞こえる。


(怒らせてしまった。)


そう思うには十分な空白だった。


『……『辛くない』と言うと思ったか?』


「っ……!」


センパイの答えで、今抱える感情がたった今『やり場のない感情』であることを察した。

少し頭を掻き、視線をあさっての方へと向ける。


迷った末に、俺は溜まりに溜まったチョコの中から適当なチョコを無造作に手に取ると、外へと飛び出す。


『オイ、彼女にチョコを直接渡そうだなんて思うなよ!』


雑音を聞いて勘違いしたセンパイが、俺を言葉で制そうとする。


「渡しませんよ!……ちょっと外に行って頭冷やしてきます。」


一言反論すると一方的に通信を切り、俺は部屋を出た。

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