1−3−2

1月5日19時―――


「お疲れ、バイト君」


「お疲れ様です、センパイ」


元日以降も交通課の応援に応え続けた結果、気づけば新年を迎えてから5日目を迎えていた。

翌日は平日で比較的多くの人員を必要としなくなるため、応援に駆けつけていた俺たちはようやく解放された。

そして今、駅前のカフェにて、新年会を兼ねたささやかな慰労会を開催する事にした。


「遅くなったが、約束していたのブツだ。」


センパイから金額を自由に設定できるプリペイドカードを渡される。

受け取るやいなや、早速シリアルコードを入力し、約束の金額が入金されるのを確認した。


「……ありがとうございます。確かに受け取りました。」


「君……少しは私を信用をしたらどうだ?そんなに信用できないか?」


「メダルゲームのリーチ演出くらい信用ないですね。」


「全然信用されてないじゃないか。」


「すみません、冗談です。ただ、元日から数日経っている中でまだ新春ガチャすら引けていないことを考えると、確認せずには居られないと言いますか……」


「……まぁ良い、初めての初詣任務だ。お年玉を兼ねて多めにみてやろう。」


(2天井分の石に加えて、シーズンパスと部下の粗相を見逃す分だけのお年玉……随分と気前が良い……缶コーヒーで済まされたクリスマスの時とはエラい違いだな……)


「随分羽振りが良いですね。何か良い儲け話でもあったんですか?」


「……まぁな」


「まさか麻や……」


「なんでそうなる」


「じゃあ、闇バ……」


「それも違う」


「だったら、短期バ……」


「だから違……いや、コレは合ってても良いな。」


「この仕事って、副業大丈夫なんですか!?」


『だったら、ヒマな時バイトして稼ぐのに!!??』という顔をしている俺に対し、センパイは「だから違うと言っているだろう!」と突っ込んだ。


「……クリスマスの時の任務覚えているか?」


「もちろんです、せっかくの追加報酬が『缶コーヒー』で済まされたので。」


「それだけ記憶力があれば、『プレゼントが壊れていた』のも覚えているな?」


「えぇ……!?……でも、言われてみれば形が歪んでいたような……その、大丈夫だったんですか?」


「結論から言えば『大丈夫ということ』になった。」


「大丈夫ということになった……?」


「君は『痛み無き青春』というものがあったとして、君はどう思う?」


「それは、誰も傷つかない青春ということですよね……別に良いのでは?」


「まぁ、そうだろうな。だがこうも考えられないか?例えば、『痛みを知らないまま、過ぎてしまう青春』とかな。」


「……要領を得ないですね。」


「つまりだ。『痛みを知らない青春』を送った若者が、果たして『他人の痛み』に気づけるかと言う話だ。」


「……気づけるんじゃないですか?……『最近の若者は、あらゆるトラブルを回避する能力に長けている』って何処かで見たような気がします。」


「ふむ、であれば確かに気づけるかもしれない。しかしその回避能力は、何処で手に入れたものだと思う?答えは簡単『ネットや文献』だよ。」


「……つまり『彼らが知っている痛みは、情報に過ぎない』と?」


「その通り。例えば「『痛み』を『色』に置き換えてみたとしよう。『ネットや文献』は『色の情報』だ。今の若者は『痛み』という『色』を認知できないまま『色の情報』だけを知って『色』を知った気になっている。そんな彼らが『本物の色』をみた時、果たして本当に『色』だと気づけると思うか?」


「……説明が長ったらしくて、『よく分かんなかった』ですね。」


「そう、『分からない』んだ。」


「聞き取れなかった返答が、正解することってあるんだ。」


「分からない以上、センターとしては放置するわけにもいかない。そこで『痛みある青春を与える』ことを目的とした実験的な組織『傷与係』が新設された。」


「『傷与係』……傷を与える係ってことですか?」


「あぁ。ただ、しばらくは出番が無かったから、大した給与もなかったんだがな……この前の一件で『痛みある青春』があることで『大きな効果』を得ることができると証明できた。そのおかげでボーナスが出て、こうしてお年玉がだせたってワケだ。」


「つまり……俺が原因の事故がキッカケで、あの子は心に傷を負ったけど、新たなドラマが生まれた……そのおかげで、俺たちは潤ったってことですか……?」


「そういうことだ。」


「……。」


追加報酬を貰えたのは嬉しい……嬉しいが、誰かを傷つけて得た報酬だと思うと素直に喜べない。


そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。

センパイは、すかさずフォローを入れた。


「まぁ、なんだ。気にする必要はない。なんなら、ますます仲が深まっているという報告も上がってきている。……だから、君はよくやったんだよ。」


とは言いつつも、センパイもどこか複雑そうな顔をしている。


「そう……ですね……。」


俺は先輩の言葉に、一言肯定することしかできなかった。




互いに複雑な気分を共有した慰労会は、1時間と経たず終了し間も無く解散となった。

帰りの電車で俺は散々迷った挙句、新春ガチャをとうとう回せなかった。


翌日、新春ガチャが昨日までだったことに気づき、また酷く落ち込む事になるが、何処か許されたような気分になるのであった。

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