第三章:落ち度の無いお年玉

1−3−1

1月1日9時―――


クリスマスが終わり、あっという間に正月を迎えた。

しかし、『青春保全センター』に『束の間の休息』はあれど『正月休み』という概念は無い。


でなければ、人間ひしめく初詣に、わざわざ足を運ぶワケがないだろう。


『司令部から12班、進行が遅れているぞ!!!このままでは『第34バカ真面目カプ』が後続の『第13共依存カプ』と接触して、余計な『勘違い嫉妬イベント』が発生するだろうが!!!気合い入れて進め!!!』


「34って……どれだけ同型のカップルがいるんだよ……」


「そう言うな、恋愛とは往々にして似たような愛が生まれるモノだ。それをセンターで適当に分別しているんだ」


年明け前から人の波に揉まれ、交通課の課長クラスから檄を飛ばされ続けること数時間。

今回の任務は【初詣の混雑に寄与しつつ、カップル同士の接触を避けよ】というものである。

毎年恒例の任務らしく、『1月の初詣』『8月の夏祭り』と合わせて『二大混雑任務』と呼ばれているらしい。


特に『初詣イベント』は『質』が凄まじく、年明け初日は特に多くの人員を必要とする。

そのため、交通課以外の俺たちも駆り出され、カップル同士の接触を避けに奔走するのである。


(しかし、こんだけ人がいるのなら、少々近寄っても分からないんじゃないか……?)


「『念には念を』というヤツだよ。」


「心を読まないでください。」


「バカ真面目カプは、その名の通り『バカ真面目』だからな。接触してトラブルを起こそうものなら『自分が納得するまで相手に尽くす』習性があるんだ。」


「センパイは愛すべき『バカ真面目』をなんだと思っているんですか?」


「普通ならなんでもないのだが、それが共依存カプ……それも異性同士だった場合、状況は途端にややこしくなる。」


「あ、ちょっとそこから先は聞きたくないかも。」


「共依存の片割れに何かと尽くすバカ真面目、それを目の当たりにした共依存のもう片割れは脳を破壊され『嫉妬』を覚えることだろう。その嫉妬が何かの拍子であらぬ方向へ転がってみろ。管理、束縛、監禁……愛憎渦巻く『ドロドロ純愛』になる可能性だってあるんだ。」


「飛躍しすぎでは?」


「そりゃ私だって、嫉妬に醜く狂う男が、みっともなくパートナーを思い通りにしようとする様子は見てみたいが……」


「ヤバい顧客じゃん。」


「ソレはそれコレはこれ。この世界にその様な愛は相応しくない。だから我々センターが適度に間を作ることで、管理する必要があるというわけだ。」


「その思想、さっき言った『ドロドロ純愛』と変わらなくないですか?」


『司令部から12班!!!だから早く進めと言っているだろう!!!』


「あー12班から司令部。対応が遅れ申し訳ない。例年かそれ以上の混雑で思うように身動きがとれない。こちらから『第34バカ真面目カプ』に接触しイベントを事前に回収する。接触の許可を。」


『……司令部から12班。接触を許可する。ただし過度な接触・情報交換はするなよ。』


「12班から司令部。許可していただき感謝する……ということでバイト君、仕事の時間だ。」


「追加の仕事ですね……報酬は?」


「1天井分でどうだ?」


「何言ってるんですか、新春ですよ?豪勢に4天井分ください。」


「ッハ、バカ言うな。1.5」


「3.5」


「2天井分でどうだ?」


「もう一声!」


「なら2天井分にシーズンパスも付けてやろう。」


「乗った!奴さんの持ってる甘酒、頭から被ってきてやりますよ!」


「おぉ、元日から豪勢だな。気を付けて行ってこい。」


「任せてください!」


追加報酬とセンパイの声の後押しを受けた俺は、周囲の鋭い視線をものともせず、ズンズンと遡っていき、その勢いのまま偶然を装って『第34バカ真面目カプ』が持っている甘酒をかけられるのであった。


その後小1時間、しっかりとバカ真面目の2人から施しを受けたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る