第3章
人は簡単には変われない
結論から言う。
俺は――
まったく成長していなかった。
「はい、スライム三匹討伐確認」
ギルドの受付で、例の受付嬢が書類に印を押す。
「経験値入ります」
俺の前にウィンドウが出る。
《レベルアップ 2》
よし。
順調だ。
俺は真剣な顔で頷いた。
「今回は慎重にいきます」
受付嬢が疑いの目を向ける。
「本当ですか?」
「本当です」
「前回は?」
「慢心してました」
「今回は?」
「慢心しません」
「本当に?」
「本当に」
受付嬢は少し考えてから言った。
「じゃあ、今日はどこに行くんです?」
「森の浅いところです」
「レベル2なら妥当ですね」
俺は胸を張った。
「俺はもう学びました」
受付嬢は小さく頷く。
「……そうですか」
一時間後。
森。
スライム。
斬る。
《経験値取得》
また一匹。
斬る。
《レベルアップ 3》
いい感じだ。
慎重に。
ゆっくり。
確実に。
そのとき。
茂みが揺れた。
狼型モンスター。
《フォレストウルフ Lv6》
「……」
俺のレベル。
3。
差は3。
「……」
少し考える。
そして結論。
「いけるな」
剣を構える。
狼が飛びかかる。
避ける。
斬る。
傷が入る。
狼が吠える。
もう一度。
斬る。
《レベルアップ 4》
「ほらな」
狼を倒す。
勝利。
俺は腕を組んだ。
「余裕だな」
その瞬間。
脳内で何かが変わった。
レベル4。
つまり。
「……俺、強くね?」
さっきまでの慎重さ。
消える。
完全に。
「この森の浅いところとか、もうぬるいな」
俺は奥に歩き出した。
森の奥。
少し暗い。
だが俺は気にしない。
レベル4。
さっき狼を倒した。
つまり――
「普通に戦える」
そのとき。
ガサッ。
現れた影。
《フォレストウルフ Lv7》
「……」
差3。
「まあいける」
戦う。
少し苦戦。
でも勝つ。
《レベルアップ 5》
俺は笑った。
「ほら見ろ」
その瞬間。
完全にスイッチが入った。
「レベル5だぞ?」
「普通の新人より速い」
「これは……」
剣を肩に担ぐ。
「奥、行けるな」
さらに奥。
森が深い。
空気が重い。
だが俺は気づかない。
なぜなら。
「レベル6!」
さっきまた上がった。
つまり。
強い。
完全に。
強者の気分。
そのとき。
地面が揺れた。
ドン。
ゆっくり現れる影。
巨大。
毛むくじゃら。
牙。
筋肉。
頭上の表示。
《グレートウルフ Lv18》
「……」
沈黙。
俺のレベル。
6。
差。
12。
「……」
数秒考える。
そして。
「……まあ」
肩を回す。
「逃げてもつまらないしな」
完全に。
前回と同じ思考。
狼が走る。
速い。
「はやっ!?」
爪。
ドゴッ。
吹き飛ぶ。
木に叩きつけられる。
HPが半分消える。
「うわっ!」
立ち上がる。
逃げる。
だが。
遅い。
狼が飛びかかる。
ドン。
地面。
牙。
目の前。
「ちょっ――」
そこで。
矢が飛んだ。
狼の目に刺さる。
ギャアア!!
「またかよ!!」
騎士の声。
「新人!!」
「……」
俺。
担がれる。
また。
意識が遠くなる。
ギルド。
ベッド。
白い天井。
「……」
横を見る。
受付嬢。
腕組み。
完全に同じ構図。
「……」
「……」
沈黙。
受付嬢が言う。
「レベル」
俺は聞く。
「……いくつですか?」
彼女がウィンドウを出す。
《レベル:1》
「……」
「……」
受付嬢。
真顔。
「言いましたよね」
「……はい」
「慢心するなって」
「……はい」
「今回どうでした?」
俺は小さく言う。
「……慢心しました」
「ですよね」
受付嬢は机に書類を置く。
「ちなみに」
「……はい」
「これ」
紙を見せる。
そこに書いてある。
救出報告書 新人男性
・森で無謀戦闘
・二度目
・学習の兆候なし
「……」
受付嬢が言う。
「三度目やったら」
「はい」
「さすがにギルド出禁にします」
「……」
俺は天井を見る。
そして思う。
人は。
簡単には変わらない。
レベルが上がる。
自信が出る。
慢心する。
突っ込む。
負ける。
リセット。
そしてまた。
レベル1。
受付嬢が最後に言った。
「……明日もスライムです」
俺は答える。
「はい」
そのとき。
ウィンドウが出た。
《レベルアップ 2》
さっき倒したスライムの経験値。
そして。
俺は小さく呟いた。
「……レベル2か」
少し考える。
そして。
「……狼くらいなら」
受付嬢が机を叩いた。
「ダメです。」
俺の旅はきっとこれからも。
同じことを繰り返す。
少し強くなって。
少し慢心して。
そして。
また。
レベル1に戻る。
――終わらない、愚かなループのように。
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