幕間1 受付嬢の視点

「あの新人は、きっとまた同じことをする」


 冒険者ギルドで働いて三年。


 私は色々な新人を見てきた。


 夢を持ってくる者。

 金目当ての者。

 自分を英雄だと思っている者。


 そして――


「おはようございます」


 ギルドの扉が開いた。


 入ってきたのは、例の新人。


 黒髪の男。


 そして私は、内心でため息をつく。


(また来た)


 三回目の救出。


 二回のレベル全損。


 普通なら心が折れる。


 でもこの男は違う。


「今日はスライム討伐に行きます」


 真面目な顔で言う。


「……そうですか」


 私は書類を渡す。


「森の浅いところだけにしてください」


「わかってます」


 この言葉。


 もう何回聞いたかわからない。


「慢心しません」


 これも。


 何回目だろう。


 でも私は知っている。


 絶対に慢心する。


 理由は簡単。


 この男は、普通の新人よりレベルの上がり方が速い。


 だから――


 すぐ勘違いする。


 そして。


 夕方。


 ギルドの扉が開く。


 騎士団。


 担架。


 その上に――


「……またですか」


 例の新人。


 ボロボロ。


 私は額を押さえた。


「今回は?」


 騎士が答える。


「グレートウルフに突っ込んでました」


「レベルは?」


「6」


 私は深く息を吐いた。


「グレートウルフは?」


「18」


「……」


 周囲の冒険者がざわつく。


「またあいつか」


「三回目だろ」


「学習しろよ」


 私は書類を書く。


救出報告書


・無謀戦闘

・慢心傾向

・三度目


 ベッドに運ばれた男を見ながら思う。


(この人)


(悪い人ではない)


 むしろ。


 素直だ。


 反省もする。


 謝る。


 でも――


 同じことをする。


 夜。


 男が目を覚ます。


「……」


 天井を見る。


 そして横を見る。


 私を見る。


「……またですか?」


 私は言う。


「はい」


 彼は静かに聞く。


「レベル」


 私はウィンドウを出す。


レベル1


 男は天井を見つめた。


 しばらくして。


「……やっぱりですか」


 私は言う。


「やっぱりです」


 沈黙。


 そして彼は小さく笑った。


「でも」


「はい?」


「次は慢心しません」


 私は思う。


(うん)


(知ってる)


 この人は明日も言う。


「慢心しません」


 そして。


 レベルが上がる。


 少し強い敵に勝つ。


 自信が出る。


 そして。


 突っ込む。


 倒される。


 リセット。


 それでも。


 また来る。


 私は最後に言う。


「明日は」


「はい」


「スライムです」


 彼は答える。


「はい」


 私は思う。


 きっと。


 この人はまた同じことをする。


 でも。


 それでも。


 なぜか私は。


 この新人がギルドに来なくなる未来より――


 また担架で運ばれてくる未来の方が、少し安心してしまうのだった。

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