Episode 3:覚醒

「あ」


黒ずくめの侵入者に対して、中2だった私は間抜けな声を出すことしかできなかった。

詰んだ。

この状況では、私の「鍵をかける」だけの能力ではでもどうにもならない。


もしかして、間洲田の件で地元のヤクザが報復に来たのか?


私は布で目隠しをされ、布の猿轡をはめられ、挙句、両手を前で組まされて結束バンドで縛られた。

そして、両腕を男2人にホールドされて、引っ張られていった。


その途中、後ろから泣き叫ぶ声が聞こえた。


「お゛ね゛が゛い゛じますッ、あの子を連れて行かないでッッ!!」


母の声だ。

今の時間は仕事のはずじゃ……


そのようなことより、私は初めて母に心配されたことに感動を覚えていた。

久しく話していない母のことだ、私に一切の興味がないのかと……。

しかし、自分の息子がいなくなることには、どうやら耐えられないらしい。


(この人も母親だったんだ……。)

(くそっ、何か考えろ、策を!)


そのときだった。

お涙頂戴が茶番劇に変わったのは。


「おいおいおい、あんだよ、こりゃあよ~~」


先の黒スーツ侵入者たちを「ロボット」と例えるなら、こちらの侵入者は「猛獣」だった。


「おいアマッ! 俺たち以外いげーに『取引』したのか、ア゛ア゛?」


いったい何のことだ、その問いは一瞬にして解決した。


「ひいい、そんな、大切な『商品』を、そんなないです、そんあことないですうう」


母がそう言ったのだ。


「取引」?「商品」? 君は一体なんのことだと思う?


「ソレ、困ルネ。先ニ買ッタ人タチハ私タチデス」


次に聞こえたのは片言の日本語だった。

また新たな人物が登場した。

マジ勘弁してくれって感じだよな、これから状況を理解するってときに。


「七千万円、払ウ、シマシタ」


「うるせー!こちとら一億前払いしとんでボケェ!」


「ひいい、なんでえ、今日は山本さんしか呼んでないのにいい」


私を置いてけぼりにして、場はどんどんヒートアップしていった。


「ミセス、オ金ヲカエス、返セッ!」


「やっぱ三重取引してんじゃね~~かよ、クソビ●チ!」


「でもあの黒スーツの人たちからはお金をもらってないですううう」


「確かに。我々は『ギフテッド』の情報を掴んだので来ただけですが」


「でも片言日本語野郎とはしてんじゃね~かっ!」


「ごめんなさいごめんなさいごmn」


私はただ、それを呆然と聞いているしかできなかった。


ところが突然、後ろから服の襟辺りをグイッと引っ張られた。

黒スーツの「ロボット」たちでも、あの「猛獣」でも、「片言日本語」の人でもない。

かといって、新しい登場人物でもなかった。


「昼間の借りを返しに来たぞ、森っ!」


間洲田の声だった。

こういうときに限って何でピンチって追加されるんだろうな。

間洲田はこちらのことなんてお構いなしに続けた。


「今回はなあ俺の兄貴たちもつれてきた、現役バリバリのヤクザだ」


2人分の足音が近づいてきた。

指の骨を鳴らす音と鉄バットを引きずる音が、私の頭で警報音となって響く。


「覚悟しろッ犬がよおおお」


バットが振り上げられたのが、空気を通して肌に伝わった。


しかし、その流れを容赦なくさえぎったのは黒スーツの女だった。


「おい、『商品』に手をだすな」


ドン!ドン!


カランカラン……


銃声に薬莢が落ちる音、焦げくさい臭い。

あたりは、静かになった。


「え、おい、兄ちゃ、え、死んでる、嘘だ……」


間洲田の震える声だけが羽虫のように辺りを飛んでいる。


続いて、一発の銃声がまたも鳴った。


間洲田の声は止んだ。


あまりにもあっけなかった。

中2のとき私をイジメていた彼は、子どもに踏みつぶされた蟻のように死んだ。

だんだんと、私の中に恐怖が湧いてきた。

当時、私の世界で生態系の頂点に立っていたのが、あの間洲田だ。

彼が瞬殺された。

じゃあ、あの黒スーツの女の人って……?

分かったのは、黒スーツの女の人にとってみちゃ、田舎のヤクザなんて赤子みたいなものだってことだった。


いきなり、私は担がれた。

「こうなったら、奪ったもんがちだあっ!」

という声が聞こえたので、あの「猛獣」みたいな男が私を抱えたのだろう。


そのときになって、やっと私は状況を理解し始めたんだ。


母が、私を売ったこと。

私は「ギフト」を持つ「ギフテッド」だったので、高く売れたのだろう。

それが借金地獄にはまっていた母の目をくらませた。

あろうことか、2つの業者に取引を持ち掛けて、両方から金を得ようとしたのだ。

多分、あの「猛獣」を先に呼んで、商品である私を引き渡そうとしたのだろう。(「片言日本語」の人は日本で満足に活動できないだろうから逃げ切れるとでも思ったのか?)

だから、その日に限って、母は家にいた。

しかし、「片言日本語」の人が日にちを間違えたのか、今日、我が家に来てしまった。


でもどうして、母に「ギフト」のことがバレたんだと思う?

黒スーツの人たちは、どうやって私の情報を掴んだんだか見当がつくか?

私は今でも、分からない。

しかし言えることは、「ギフテッド」は人を狂わせる。

それほどまでに、ギフトの価値は高く、その上、希少だ。

人が人の道を外れても、欲しくなるものなんだ。


私はどこかに無造作に放り込まれた。

その拍子に、目を覆っていた布が取れる。

見えたのは車の天井。私は後部座席に仰向けになっていた。

車が急発進し、慣性の法則が私の身体に働く。

間を置かず、次々と銃が被弾する音が聞こえる。

同時に、車は右へ、左へと揺れる。

まるで制御を失ったジェットコースターに乗っているようだ。

運転席では「猛獣」男が暴言を巻き散らしていた。


「あのクソババア! 息のねえ止めるめーに金を回収すりゃ~よかったッ!」


ダンッ!


「猛獣」男が運転席と助手席を隔てるセンターコンソールを拳で殴る。

すると、そこは凹み、拳の跡がくっきりとついていた。

シューーと、湯気が出ているようにも感じる。


かと思うと、右から車に衝撃が加わった。

幅寄せされ、車を当てられたのだ。


窓ガラスが割れる。

黒スーツの男が車中に侵入した。

私は足を掴まれて、窓を通して車から引きずり出される。


「おい! 何やっとんじゃワレええっ!」


「猛獣」男が後部座席に身を乗り出す。

当然、ハンドルからは注意が逸れている。

ギュイン! と車が明後日の方向に行きかけた。

「猛獣」男はそれに気づいて、慌てて運転席に戻る。


私が「猛獣」男の車と「黒スーツ」軍団の車を渡す橋みたいになっているとき、後方からは、バイクに乗った「片言日本語」の人が迫っていた。


「待ツ、シナサイ! ソレハ私タチノ物デス!」


着ている厚手の綿のコートが風に吹かれてクジャクの羽のように広がる。

片手でバイクを操縦し、もう片方の手で銃を構えていた。


バシュン!バシュン!


「片言日本語」の人はこちらの方へ銃を撃った。

普通、「商品」で私に間違って当たったら困るから、躊躇するもんだろ?

しかし、そういうものは一切なかった。

そして、誤着弾も一切なかった。

弾は丁度、「黒スーツ」男の腕で止まっていたんだ。


未だに、奴以上の銃の使い手は見たことがない。


「黒スーツ」男に手を離された私は車から落ちそうになる。

すかさず「片言日本語」の人は車と車の間に入り込んで、私をキャッチする。

そして、外国語で喜びの声を上げると、法定速度をバカにするほどのスピードで走り始めた。


私は奴らのなすがままになされていた。

いくつもの弾丸が私の肌をかする。

シートベルトもヘルメットも着ていないのに、鉄の塊が駆ける道路に曝される。

あまりの恐怖に私は失禁し気を失った。


気付けば、潮の香りがした。

いつの間にか近くの浜辺にまで来ていたようだった。


そのとき私を担いでいたのは、あの片言日本語の人だった。


突然、地面が揺れる。

目の前に広がるのは海に、遠く離れた港。


私は、小さな船の上に乗っていた。


ひと2人ぶんくらい離れた距離に「片言日本語の人」が立っている。

銃の標準を合わせるような目で陸を見ている。


陸では「黒スーツ」男2人が、「猛獣」男に声をかけていた。

さっきまで戦っていたはずの彼らが、何かを話し込む。

そして、「猛獣」男は、黒スーツ3人組と何かを準備し始めた。


目が暗いのに慣れていたので、はっきり見えた。


ロケットランチャーだ。

ロケットランチャーが準備されたのだ。


「お前らに『商品』を渡すくらいなら、船もろとも沈んだ方がマシじゃああ~~!」


あの「猛獣」男が叫んだ。


その瞬間、私の中で何かが切れた。


(俺は使い捨ての『モノ』じゃないっ、『人』だあああ)


そして、頭が冴えた。

この状況から抜け出す方法を思いついたのだ。



【つづく Next Episode→→→逆襲、はじまる】

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