Episode 2:ヤンキー、復讐に屈す

その日もいつも通り、私は間洲田から焼きそばパンとジュースを買ってくるように命じられていた。

そのとき、5分以内に戻ってこないとお仕置きだと言い放たれた。

私と間洲田たちヤンキーがいたのは、4階よりさらに上、屋上だ。

前にも言ったが、自動販売機は1階しかない。購買部もである。


けれども、私はのんびり歩いて行った。

そのうえ、わざと間洲田の嫌いな甘い菓子パンと苦い緑茶を買った。


道中、胸のドキドキが止まらなかった。


(大丈夫、家でさんざん練習しただろ)


心の中で念じまくって動悸を落ち着かせた。


私が買ってきた菓子パンと緑茶を手渡したとき、間洲田はフリーズした。

どうやら、生まれてから人の上にふんぞり返るしかしてこなかった彼の脳では、処理できなかったらしい。

私が10分も遅れてきて、さらに、違うものを買ってきたという紛れもない事実を。


私はすぐさま、人生で一番ほどの力を出して、地面を蹴った。

屋上から階段につながる扉へと走る。


後ろから、「どーゆーことだぁ!」という怒声が聞こえるが気にしない。


ついた。扉をパッと開け、中に飛び込む。

瞬きする間もなく、扉を閉める。

そして「ギフト」で鍵をかけた。


「はあ……」


私はため息をつきながら、扉に背を預け、崩れ落ちるように座り込む。


ドンッ!


ト゛ンッ!!!


扉が殴られる音が振動とともに伝わる。

しかし、「ギフト」のおかげで扉の窓のガラスは決して割れない。

音の質が変わった。

誰かがバットを取り出してきたようだった。


「おいっ何で開かねえ!」

「もーりーっ! 出せ、お前この野郎ォォ」


私は窓に顔を出すと、間洲田たちの顔を見ながら、クイッ! と首を傾げてみせた。


「ふざけてんのか、森ィィィ」

「もしかして、これ、『ギフト』ってやつじゃ……」


ヤンキーたちが扉の向こうの口々に叫んでいる。


「おーこわこわ」


そう呟きながら、私は階段を下りたのだった。


私の母校は違法建築スレスレだったので、非常階段なんていう親切なものはない。

しかも、屋上と4階は、他の階と他の階の間よりも高くなっていて、壁を伝って下の4階に戻るというのは難しい。


下校時間になって外に出ると、まだヤンキーたちはヒーヒーいいながら屋上の縁に足をかけている。


あ、間洲田が足を滑らせた!


それを見た瞬間の快感は今でも忘れられないなあ。


間洲田が情けない叫び声を上げながら仲間の腕にしがみついているのを尻目に、私は校門から1歩踏み出した。




話を変えて、昔の我が家の話でもしようか。

私の家族は母しかいなかった。

母は夜職で、私が学校から帰ると、いつも床でイビキかいて寝ている。

呑気そうに見えるが、これでもかなりの苦労人だ。


まだ小学校に入ったばかりのころ、母に怒鳴られたことがある。

曰く、

「お前は穀潰しだ」

「働かずに学校行きやがって」

「私なんか13で売りやっとったわ」

とのこと。


しかし、母は全て言い終わると、顔を皺くちゃにしてワンワン泣いた。


「ごめんねぇ、ごめんねぇ。こんなつもりじゃなかったのに……」

「借金が減らないのよお、だからつい、イライラして……」

「私なんて母親失格よおお」


小学生だった私は、母の背中をさするなんていう気休めしかできなかった。


あれ以来、母に怒られたことはない。

母は私と目が合っても、敢えて話しかけようとはしない。


母から1週間のご飯代として1000円をもらうたびに罪悪感を感じていた。

「ああ、僕、お母さんに迷惑かけているな」

と。


でも、『ギフト』を得たあとの私は違う。

速く沢山稼いで、母を楽にしたいということで頭がいっぱいだ。




真夜中のことだった。

まだ、間洲田たちを懲らしめてから24時間も経っていない頃。

私はボロアパートと掘っ立て小屋の中間くらいの我が家で、擦り切れそうな毛布をかぶりながら寝ていた。

「ギフト」のおかげで成り上がり、母の生活を楽にする自分を想像するのは、羊を数えるよりもいい睡眠導入剤になった。

なので、心地悪い環境でも、その夜は快眠だった。


申し訳程度についている我が家の扉がぶち破られるまでは。


侵入者は見たところ、女1人、男2人だった。

3人とも夜闇に溶け込みそうな黒のスーツにサングラスという出で立ちである。


「……」


侵入者は驚くほどに静かだった。


我が家には度々、借金取りが無断であがりこんでくることがあった。

そういうとき、借金取りは「おおん?」とか「ああ?」とか唸っている。

しかし、我が家のあまりにも貧乏な有様に、利息も払えなそうだと分かると、当てつけに家具の1つや2つを蹴って、さっさと立ち去って行くのがお決まりだった。


でも、このときの侵入者たちは違った。

たまたま床に置いていた1000円札には目もくれず、踏みつけた。

辺りを見回す視線は冷ややかだ。

なのに、私を見る目は違う。

何か欲を孕んでいる。

その証拠に、私の方をずっとみて、避けられそうな家具に足をぶつけていた。

その痛みすら、気にせず私に向かって真っ直ぐ歩くだけだった。


そうやって、私のところへ近づいた。


「な、なんなんですか」


私は恐れず侵入者たちに声をかけた。

屋上での間洲田たちの一件で無敵感に包まれていた。

下手の事したら、また昼間みたいに痛い目合わせてやるとさえ意気込んでいた。


しかし、侵入者の1人である女は、こう告げただけだった。


「両手を上げろ。騒ぐな」


チャキ。


無機質な金属音が響く。

拳銃だ。

拳銃が私に向けられていた。


「あ」


詰んだ。

そう思った。


【つづく Next Episode→→→覚醒】

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