Episode 4:逆襲、はじまる

一番深い絶望を味わった経験はいつか、と訊かれたら、君は何て答えるかな?

私だったら、今、君に話している「中2のときの出来事」だと答えるだろう。

では、話の続きに戻ろう。





中2の私は船に顔をこすりつけて、猿轡を取りながら考えていた。


自分に「特別な何か」さえあれば、不遇な状況から脱せると思っていた。


「ギフト」さえあれば全てが上手く運ぶ、そう信じてやまなかった。


「やられっぱなし」の人生に反抗できると夢見ていた。


しかし、違った。

運命は変わらなかった。

「ギフト」を得ても、私を「搾取する価値」が上がっただけだった。


変わらなきゃいけなかったのはステータスや環境だけじゃない。


自分自身もだ。


そのときやっと、私は気づいたんだ。


同時に、猿轡が外れた。





私は船の端に転がった。

勢いに任せて、海に身を投げる。

そして、体をジタバタ動かして、陸へ向かおうとする。


それに気づいた「片言日本語の人」が私を追って海に飛び込んだ。


(しめたぞっ)


私はそう思いながら、波に抗った。

一方、「片言日本語の人」は水に浮くことすらできなかった。

藻掻けど藻掻けど、沈んでいく。


さっき話した通り「片言日本語の人」は季節外れの綿のコートを着ていた。

綿は温かいかもしれないが、よく水を吸う。

泳ぐ際にこれを着ているのは致命的だ。

生地がどんどん綿を吸い、となっていく。


銃も、海の中ではうまく使えない。

波が突然来て視界が遮られるし、水中で発砲すると、弾の飛距離は縮む。


陸じゃ、きっと勝てなかっただろう。

しかし、水中に戦いの場を移せば、話は別だ。


これもひとえに、奴らが、私という「金になる商品」を異常なまでに狙っているからできたことだ。

正気だったら、自ら海に飛び込んだりしなかっただろう。


そして、その「欲深さ」を陸の敵にも利用する。

陸の敵は、私が浜に近づいていくのを見ると、目の色を変えた。


チャキッ!


一斉に銃を向ける。

「猛獣」は「黒スーツ」たちに。

「黒スーツ」たちは「猛獣」に。


やはり仲間割れした。

私が「片言日本語の人」に奪われたので一時休戦していたが、私という『商品』が手に入りそうな今、なりふり構っている暇はない。

先に敵を殺して、『商品』を手に入れる。

それが奴らの第一目標に切り替わった。


私独りで敵4人を殺すのは不可能だが、殺し合ってもらったら、あとは残った人を倒すだけ。


ただし、その人は、争いを勝ち抜いた手強い敵であるが。


岸に辿り着くと、陸で立っていたのは、黒スーツの女ただ1人だけだった。

黒スーツの男2人と猛獣男は息絶えていた。

血の散らばりの激しさが猛烈な戦いを物語っている。


黒スーツの女は私に駆け寄り銃を構えた。


「ついてきてもらうぞ」


「イ・ヤ・だ・ね☆」


私はワザと嫌味な声色で言い放った。

黒スーツ女が私の腕を掴む。


黒スーツ女は表情を変えずに言った。


「撃つぞ」


「撃てるもんなら、撃って見ろ。『ギフテッド』である俺が死んでもいいならな」


ここまで言われても、黒スーツ女は表情を変えなかった。

しかし、目の動揺は隠せていない。


「……ふざけるな」


「あー! やっぱり撃てないんだー!」


「最後の警告だ。次、口を開いたら撃つぞ」


「その前に、舌嚙み切って死んじゃおうかな」


「ぐだぐだ言うなっ!本当の痛みを分からせてやる」


「ヤリマ●ちゃん可愛い~♡ はい撃って! 撃って! 撃って!」


「うるせええ!」


遂に黒スーツ女がブちぎれた。

今にも銃を発砲しそうな勢いだ。


その時。

私は足を上げ、銃口に靴底を当てた。

黒スーツ女は、一瞬目を見開いたが、かまわず引き金に手をかけた。


私はここで「ギフト」を使った。

自分の足を「蓋」とみなし、銃口を塞ぐ「蓋」に「鍵をかけた」

これで、黒スーツが弾を撃とうとも、私の足はビクともしない。

逆に、勢いの出口を失った銃は耐えられないだろう。


バフン!


異常な音を立てて、銃が破裂した。

銃はバラバラになり、弾丸のような速さで辺りに散らばる。

その破片の1つが、黒スーツ女の頸動脈を貫いた。


黒スーツは浜辺に倒れる。

首を押さえて、血を止めようとする。

しかし、手は銃の爆発の衝撃で、大きく裂けていた。


黒スーツ女が戦闘不能になっている間に、私は「猛獣」男の死体から銃を拝借する。

それで、とどめを刺した。





私は数分、浜辺をブラブラしていた。


近くには、4人の死体が転がっている。

警戒していたが「片言日本語の人」が浜辺にあがってくる気配はない。多分おぼれたのだろう。船を操縦していた人も、ただの雇われだったのか、どこかへ逃げていった。

私があの4人を倒せたなんて。

その実感がふつふつと湧き上がった。


水平線の方を眺める。

暗いので、景色もへったくりもありゃしない。

けれども、以前とは目に見えるものが違う気がした。


そのまま私は暗闇に紛れて町を去った。





いやー、思ったより話が長くなってしまった。

私の昔話を聞いてくれてありがとう。

最後まで付き合ってくれるのは君くらいだよ。

もう10年も前の事だから記憶違いなところもあるかもしれないが、勘弁してくれ。


え? 今はどうしているのかって?


それって、今の職業は何かとか、どこに住んでいるとか、そういう話?


…………


…………


……ちょっと言えない、かな。


まあ、あれから、うまくやっているよ。


裏社会で舐められないくらいにはね。



【完】

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