Episode 1:超能力、得る

私の住む町はいわゆる「スラム街」だった。


ガラの悪い連中が民家に落書きしているのなんて、犬の散歩より頻繁に見かけた。

よく分からないクスリをキメて、動けなくなっている人が道端に転がっていた。

町の中学校には校則が500条くらいあったはずだが、金髪に染めている人、ピアスを至る所に開けている人、タトゥ―している人まで、何でもありだった。


君の住む地区でこんなこと、あり得るか?


かくいう私も、その町の中学校に通っていたわけだが、男の中では体格が小さいせいで、よくイジメの対象になっていた。


私をイジメていたのは学校のボス格ともいえるヤンキーたち。

彼らのリーダーポジションにいる生徒、間洲田ますだ、といったっけか。

彼は地元ヤクザの組長の息子だった。

そして、私の母はそのヤクザをバックとする闇金に多額の借金をしていた。




「お前の席、ねーから」


中2の私の学校生活は、毎日この言葉から始まる。


朝、登校すると、私の席は間洲田たちヤンキーに占拠されている。

このクラスに、それに異議を唱える者はいない。先生でさえも。

いや、思うことは何人たりとも許されていなかった。


間洲田から投げかけられる二言目も決まっている。


「ジュース!」


述語を足してみよう。


「ジュース買ってこい!」


その言葉を号砲に、私は走りだす。


なぜなら、5分以内に自動販売機に行って帰ってこないとリンチされるからだ。

※間洲田の仲間の1人がストップウォッチで計っています。

ちなみに当時、私のクラスの教室は4階、自動販売機は1階にしかなかった。


生徒の合間を縫いながら、階段を2、3段ジャンプし、風のように駆け抜ける。

自動販売機に着くと、寄りかかって体を休めながら、ボタンを押しジュースを買う。

ジュースがガコン! と取り出し口に落ちてきたら、またダッシュ。


ダッシュダッシュダッシュダッシュ。


肺が内側から圧迫されるように痛い。心臓が風船のように破裂しそう。


意識を朦朧もうろうとさせながら教室にスライディングする。


さて、間に合ったのだろうか。

私は全力を出したのだが。


お出迎えするのは、ヤンキーたちの笑い声。

甲高く、キーキーとして、猿のよう。


「だっせーwww」

「おい、森ィィー(※私の名前である)! 10秒オーバーだよ、10秒!」

「はいお仕置き確てーいwww」


私はジュースを奪われると、床にたたきつけられ、全身を蹴られる。


そのとき一瞬、ヤンキーの一人の持っているストップウォッチの画面が見えた。

「4分51秒」とあった。


しかし、決まっていつも、私は黙って目をつぶり、時が過ぎるのを待っているだけだった。




お昼休みは、間洲田の行く先々にはべる。

というか、下に敷かれている。

間洲田は四つん這いになった私の上に座り、私は彼の馬となって手足をセッセと動かすのだ。

理由を問うたら、中2の私は次のように答えるだろう。

「僕はやつ……じゃなくて、の馬だから」

「森=間洲田の馬」

「証明終了、Q.E.D.」

と。


校舎の床にはゴミや窓ガラスの破片が散らばっていて、いつも膝や手のひらをヒリヒリさせていたっけ。


そして、身体的苦痛だけじゃない。


間洲田の尻に敷かれ、地べたを這いつくばっている姿を周りの人に見られるのが、精神的にきつかった。

なんと惨めで、学校の底辺なんだろう、私は。

自分の身の程を痛いほど思い知らされた。




……いや、そんな暗い顔するなって!

じゃあ、明るい話題に変えようか。


世の中には「ギフト」と呼ばれるものがある。

数万人に1人の割合で与えられる、特別な「超能力」のことだ。

「内閣府ギフト庁」によれば、生まれつき「ギフト」を持っている人もいれば、何の前触れもなく、ある日突然「ギフト」を手にする者もいるらしい。


私は後者だった。


本当に、特別なことは一切なかった。

今でも、いつの日から「ギフト」が発現したのか、正確に思い出せないレベルだ。

中2の頃だというのは辛うじて分かる。

ある日突然ではなく、徐々に「ギフト」が自身の身に宿っているのを自覚していった。

いうなれば、少年少女が、第二次成長期を経て、いつのまにか青年になっているような変化。


あまりにも自然だったので、同居していた母にさえバレていないと私は思っていた。

まあ、夜職だった母は、私が起きているときは大抵、寝ていたし。


おっと、話が逸れたかな?

では次に、私の「ギフト」について少し説明しよう。


私の「ギフト」は「あらゆるものに鍵をかけられる能力」だ。

念じる、というほどでもないが、頭の中で「鍵を出そう」と考えると、手から鍵が出現する。


ほら、こんな風に。


例えば、その鍵をそこの引き出しに挿すとする。

鍵穴がないから、挿せないじゃないかって?

問題ない。鍵が引き出しに触れた瞬間に、鍵穴は出現する。


鍵をひねる。

すると、鍵がかかる。

な、開かないだろ?


もう一度開けるには私の持つ鍵が必要だ。

もちろん、出したときのように、頭で念じれば鍵は消え、また頭で念じれば鍵が私の手に現れる。


たとえ、バールを捻じ込もうとしても、ダンプで突っ込もうとも、核ミサイルで破壊しようとしても、ビクともしなくなる。

「ギフト」の特典だ。


超能力を得たと理解すればするほど、私は心の奥底からワクワクした。

この能力さえあれば、間洲田の下僕という立場から脱出できる。

この能力さえあれば、それを利用しお金を稼げて、家の中で「ただの穀潰し」にならなくて済む。


そう思ったからだ。


「ギフト」は私の人生を変える。

これまで踏みつけられるしかできなかった私の運命を変える。


「この『ギフト』はチャンスだ」

「僕、いや、は成り上がってやる……!」


中2の私は、小さく、でも熱く呟いた。




【つづく Next Episode→→→ヤンキー、復讐に屈す】

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