第4話 好奇心
昨日の仕事を思い出しながら、咲は軽く朝食を済ませ、作業の段取りを頭の中で確認する。
「棚の隙間や壁の隙間、ましてや頭を入れてはいけない……もし何かあったら宮園を呼ぶ」
注意事項を反芻しながら、慎重に廊下を歩く。
作業中、棚のほこりを払おうと手を伸ばした咲は、わずかな隙間に光が漏れているのに気づく。
「……どうなっているんだろう」
注意しなければと思いながらも、好奇心が一瞬だけ理性を上回り、隙間に指を入れてしまう。
次の瞬間、ガシャン!という音と共に、ギロチンのように刃物が落ちてきた。
指先に刃物が触れた感触が伝わる。
「うっ……!」
咲は慌てて手を引き抜いた。痛みで力が入り、指先が微かに震える。
赤く染まる血を見て、咲は一瞬心が凍った。
手の中で冷たさと熱さが混ざり、血の匂いが鼻を突く。
「……宮園さん、呼ばなきゃ……」
恐る恐る手を握り、深呼吸して冷静さを取り戻す。
廊下に向かって小さく声を出す。
「宮園さん……!」
静かで落ち着いた足音が近づき、宮園が現れる。
咲の手元を確認すると、宮園は低く落ち着いた声で言った。
「……本当に油断するとこうなるのよ」
咲は黙って頷く。痛み以上に、屋敷の異様さに対する疑問が胸に浮かぶ。
「こんなに小さな隙間に手を入れただけで、どうして刃物に触れたのだろう……?」
数分後、宮園はそっと手当を終え、咲に言った。
「もう大丈夫。怖がる必要はないわ」
咲は手を軽く握りしめ、慎重に棚の周りの作業を再開した。
手元を見ながら、一つ一つの動作を丁寧に確認する。
少しずつリズムを取り戻し、普段の作業を行えるようになると、咲の胸の中には小さな達成感が芽生えた。
しかし、棚の隙間を通して微かに冷たい風が吹き込むのに気づいた。
その風は人の気配のように肌を撫で、咲の背筋に冷たいぞくりとした感覚を残す。
耳を澄ますと、遠くから「カチ……カチ……」と、規則正しい金属音が響いてくる。
まるで屋敷自身が咲の行動を監視しているかのようで、音の方向を探す手が思わず止まる。
「……ここには、まだ何かがいる」
かすかに床板が軋む音、廊下の隅で微かに響く金属の音。
咲は目を細め、屋敷の奥深くに目を向けるが、暗がりには何も見えない。
それでも、目には見えない視線が確かに自分を追っている気配がした。
小さな達成感と共に、咲の胸の奥には新たな恐怖が芽生えた。
これからの日々、屋敷の中で何が待ち受けているのか——。
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