第3話 男嫌い
あー、まずいことになったかも……
ボクは内心めちゃくちゃ焦りまくっていた。
璃奈に見つかった後、何故か目隠しをされ強制的に豪華な邸宅に連れて来られて今に至る。
璃奈は優雅に紅茶を飲みながら、ソファに座っている。
「え、えと……」
「どうしました?」
「どうしてボクは水無月さんの家に連れて来られてるの?」
「簡単なことです。ここなら、誰にも会話は聞かれませんし、あなたを逃がすこともありませんから」
なるほど……つまり、ボクは今璃奈の手のひらの上ということか。
「理解できたら、座っていただけますか?」
「あっ、はい……失礼します……」
ボクは言われた通り、璃奈の目の前に座る。
すると璃奈はティーポットを手に取り、ボクに紅茶を淹れてくれる。
「どうぞ、飲んでください」
「……」
「安心していただいて大丈夫ですよ。今回は毒物などは淹れていませんので」
えっ……今回は?
じゃあ、次回から入れられるってこと?
ボクは一応今回は毒は入っていないらしい紅茶を一口飲む。普通に美味しい紅茶だ。
「では早速ですが、真城凪さん……あなた、どこから私の会話を聞いていたんですか?」
鋭い視線でそう質問される。
これは……正直に言った方がいいのかな?
「えーっと……水無月さんが、星那のことを必ず手に入れるって言っていたあたりかな? 聞いちゃったのは最後だけだから、安心して!」
「なるほど……そうですか。つまり、私が一番聞かれて欲しくない部分を聞いてしまったのですね、真城凪さん……」
「あ……」
静かな室内に璃奈がコトリと、カップを置く音が不気味なほどに響く。
「勘違いしないでもらいたいのですけど、私は夜桜星那という男に一切恋愛感情は抱いていません。その逆です……男なんて……大嫌いですから」
嫌悪感むき出しで璃奈ははっきりと言う。
璃奈はこの貞操逆転世界では珍しく、とある理由で男を心底嫌っている男嫌いだ。そんな彼女が主人公と出会い最初は好感度がマイナスから始まるものの徐々に好感度が上がっていくところが実にいい。
「へぇー、そうなんだ」
「……あなたは批判しないんですね」
「好みは人それぞれだし、ボクがとやかく言えることじゃないからね」
「……ですが、私はとある理由でどうしても男と結婚しなければならないのです。それが……それだけが私が生まれてきた意味、らしいですから……」
悲しいような、虚しいような、どちらとも言い難い表情で自らの定められた運命を嘲笑うかの様に嗤う。
璃奈にも悲しい事情があるんだよね……この世界でもなんとか解決するといいけど……
だけど、それは主人公である星那の役割だ……モブのような存在であるボクには何もできない……でも……それでも……
「ボクは水無月さんのほんの些細な力にしか……もしかしたら少しも力にならないかもしれないけど……君が誰かの力が必要とする時は必ず協力するよ」
「……そうですか……あなたのような人が男性にいてくれたら少しはマシでしたね」
「はは……」
実はボク男なんです! なんでもこの状況で口が裂けてもいえないよね……というかバレたら、本当に毒を盛られそうだ。
よし、璃奈には絶対に男だとバレないように気をつけよう。
「それにしてもあなた、随分と可愛らしい容姿をされていますね」
「え? そ、そう?」
唐突に褒められ、これは男として喜んでいいのか悩んでいると璃奈は正面のソファから、ボクの隣に移動する。
「な、なんでこっちに?」
「……ふふふ」
璃奈は初めて柔らかく微笑むと何を思い立ったのか突然、ボクのほっぺをむにむにと引っ張る。
「あなたの頬、すべすべで柔らかいです」
「いひなひにゃにふるの!?」
「いえ、俗に言うただのイタズラというやつです。少し付き合ってください」
「そ、そんにゃ……」
そのまましばらく璃奈はボクのほっぺをむにむにと引っ張るいたずらをしていた。
これ、そんなに楽しいのかな?
「はぁ……それにしてもまさか隠し通していた秘密を他人に知られてしまうなんて……一生の不覚です……」
「まぁまぁ、誰にだってそういうことあるよ!」
ボクがそう慰めると璃奈はまたもやあの不気味な笑顔を浮かべる。
「知ってしまったからには……覚悟は出来てますよね?」
そしてその笑顔でとんでもない脅しをかけてくる。
怖いよぉ……ボクなにされるの……?
「あなた、確かあの夜桜星那の彼女でしたよね?」
「いや、いや! 違う違う! ボクは星那の彼女なんかじゃないから!」
「そうなのですか? それはそれで好都合です。でしたら……私があの男を手に入れるのを手伝ってください」
まさかの提案にボクは一瞬驚くも、よく考える。
これってボクが主人公とヒロインの恋愛を手伝えるってこと? え? そんな名誉なことをボクが?
「で、でも——」
「必ず協力するとさっき言ってくれましたよね?」
きっちり言質を取られてる。どちらにしろ、ノーという選択はないみたい。
「わ、わかったよ」
「少しだけ、信頼できる女性であるあなたにだからこそ任せられます」
なんか、どんどん男だって言いづらくなっていくんだけど……
「頼りにしていますよ、凪さん」
璃奈は少し嬉しそうにそう呟いた。
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