第6話 重い女の子はイヤ? ※答えによっては詰みます
「いっしゃいませー。ご注文をどうぞー」
「ストロベリーデラックスチョコバナナスペシャルパフェとカフェラテをアイスで一つお願いします」
「俺はホットコーヒーを一つお願いします。あ、ミルクと砂糖ありで」
「かしこまりましたー」
所変わってファミレス。
あの後、豹変した瀬名さんにアドバイスを求められ、場所を移動した。
あの目を前にして、俺は断ることはできなかった。多分、断ったら唐揚げの材料にされていた。
注文してしばらく、タワーのような容器に入ったパフェが運ばれてきた。
それを見た瀬名さんは目を輝かせ、細長いスプーンを手に上に添えられたイチゴソースとクリームから順番に掬っていく。
下の層にはチョコとバナナとフレークが大量に待っているが、時間はそうかからなさそうだ。
……コンセプトのよくわからないパフェだな。甘いのか酸っぱいのか。
甘味を食べて、うっとりとする姿を見れば、瀬名さんもそこら辺にいる少女と変わりない。
「ん〜っ! おいしいっ」
いや、訂正。そこら辺にいるではないな。滅多にいない美少女だ。
しかしながら、さっきの狂気は一体どこへ?
「あちっ」
考え事をしながらコーヒーを口に運ぶと思ったよりも熱かった。
「大丈夫?」
「大丈夫」
「じゃあ、本題。それで……どうすればいいと思う?」
さっきと同じ質問ではあるが、先ほどの面影はない。
油断はできないが、俺は少し安堵して質問に答える。
「えっと、進藤は大量の唐揚げを嫌がってたんだよな?」
「うん」
「そこにさらに大量に作っても進藤の好感度は上がらないと思うぞ?」
「どうして? やってみないとわからないよ? 依存させたらいいだけだと思うけど」
脳筋すぎる。
この透明感あふれる美少女から出る解答が脳筋。これがギャップなのか。
どうしたものか。
「ああ〜、どうやったら振り向いてくれるのかな……」
ちょっと考えはあれだが、瀬名さんは本気で悩んでいるようだ。
「いつから好きなんだ?」
「え? ええ〜? それは〜」
照れながら、瀬名さんはスプーンの手を止める。
あれ? というか、もう全部食べただけだった。どこへ行った、あのタワーのように盛り付けられていたクリームたちは。
「多分、小学校の時かな。その時は気がついてなかったんだけど。中学の時、転校して離れ離れになったでしょ? それから好きって気がついて……」
乙女の顔で話す姿は様になる。さっきまで脳筋思考だったので感情が若干追いつかない。
しかし、瀬名さんの言っていたことはノートに書いてあったこととも一致していた。
その事実がより緊張感を持たせる。
「それでね。こっちに戻ってきてからも色々してるんだけど、中々ね……」
「ちなみ何を?」
「え? 部屋を掃除したり。朝ごはん作ったり。洗濯物したりかな。この前なんて、使ったタオル出しっぱなしだったから持って帰ったの」
「……」
持って帰って、洗ったんだよね? そういう意味だよね?
「……頻度は?」
「週9」
「……」
一週間って七日。
あれ? 俺がおかしいのか?
さも当たり前のよう言うせいで俺がおかしいのかと錯覚する。
「ま、まぁ、言いたいことは色々あるけど、一つ言いたいのは限度って言葉知ってる?」
「限度? それくらい知ってるよ。バカにしてる?」
「してないしてない」
急に怖くなるんだもん。やめてほしい。
瀬名さんは項垂れながら、手元のお絞りをいじり始める。
「例えばだけど。瀬名さん、好きな食べ物ある?」
「甘いものかな。今食べてるのもそうだし。チョコとか」
うむ。実に女の子らしくてよろしい。女の子らしい一面を見ると安心する。
「じゃあ、もしさ。超大量にチョコを渡されたらどうする? それも冷蔵庫に収まらないくらい」
「それって気になってる相手から? それだったら嬉しいよ?」
ダメだ。通じてない。
ちょっと大袈裟に言ってみたけど、意中の相手からであれば、量など関係ないようだ。
「例えが悪かった。じゃあ、興味のない男子からもらったら?」
「そんなに大量はいらないかな」
「そういうことだよ」
「……」
俺の言葉にハッとしたようにおしぼりを触る手を止めた。
「……それって私になんて興味ない。そう言いたいの?」
あかーん。
地雷踏んじゃった。そうじゃない。そうなんだけど、そうじゃないんだ!
瀬名さんは笑ってるけど、目は全く笑っていない。
「ち、違うって。ほら、あれ……何事にも限度があるってことが言いたいだけで……」
「限度」
「そう。いくら好きな相手からの好きなものでも多すぎたら、流石に相手を困らせるだけだから。今回だったら、部活前に2Kgも唐揚げ食べたら、動けなくなるだろ? そもそも食べる量にはキャパシティあるし。無理矢理なんてもってのほか」
「……」
「部屋の掃除とかもそう。毎日のように来られたら流石に大変だろ。プライバシー覗かれてるみたいで」
「……うん」
どうにか俺の言葉に先ほどの狂気をしまいこむと今度は意気消沈したように小さく頷いた。
しかしながら、どこか納得いってなさそうな表情ではある。
「明日からは、料理をするにしても適切な量を作ってあげてみなよ。後、好きなものばっかりじゃなくてバランス良く。多分、それで喜ぶと思うから。掃除とかも週一でいいと思う。騙されたと思ってやってみてくれ」
「……わかった。ありがとう」
小さくお礼を言うと瀬名さんはカフェラテをストローでズズズと飲んだ。
「でも汐見くんってすごいね。アドバイスできるくらい恋愛経験豊富なんだ」
「あんまりないっす……」
「あっ」
ないです。ただの片想いで終わりました。しかもあなたの好きな人に。BSS。
そんな気の毒そうに見ないで。
「これくらいは、まぁ誰でもアドバイスできると思うよ」
「ふーん……そっか」
瀬名さんの返事をしながら、グラスの氷をストローでくるくるとかき回す。氷がカランと鳴った。
「ねぇ、私の愛って重いのかな?」
「そ、それは……」
直球やめて。
重いなんて言えるか? 無理。
「汐見くんだったらどう? そういう重い女の子はイヤ?」
「それは……」
俺だったらどうするだろうか。
今は客観的に答えていたつもりだ。俺からみても激重である。
「ま、まぁ、限度はあるかもしれないけど……俺だったら嬉しいかな」
とりあえず、彼女の機嫌を損ねない回答はこんなところだろうか。
俺は少しビクビクしながら、瀬名さんの反応を盗み見る。
「そうなんだ」
そして俺の返答に瀬名さんは綺麗な笑顔で答えたのだった。
……危ねぇ。
その後、俺と瀬名さんはファミレスを後に解散した。
解散してからの帰り道。
先ほどの質問をもう一度思い出す。
──そういう重い女はイヤ?
さっきは、ああ答えたけど、実際にもし、それが俺に向けられたものだったらどうだっただろうか。
あの頃。一途に誰かを想っていた頃だったら。俺のことを一途に想ってくれるような子がいるとしたら。
少なくとも進藤のように、拒絶したりはしない。
そういう意味では先ほど取り繕ったら答えは、本音だったかもしれない。
「若干、肩入れしすぎか?」
後になって思い至る。
ノートの持ち主が瀬名さんと決まったわけじゃない。
もし、瀬名さんのものでないのに、進藤とうまくいってしまったら……。
「ま、まぁ、まだ大丈夫だろ」
うまくはいってほしい気持ちもあるけど……複雑な気持ち。
あ……ノートのこと聞くの忘れた。
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