第5話 愛とカロリーは比例する
俺を見つけた瞬間、金髪少女──折原雪那は口をパクパクしていた。
そしてすぐに顔を真っ赤にして真っ直ぐにこちらに向かってきた。
いつもは着崩した制服だが、今は学校指定のジャージ姿。それでもしっかりとズボンの裾を半分折ったりとおしゃれ?は忘れない。
ジャージすらもしっかり着こなす彼女。そんな彼女が一体何をしていたか。それはもう一目瞭然である。
そして目を血走らせながらこっちにやってきて、俺を睨みつけて口を開いた。
「ねぇ」
「は、はい」
「今、見たこと絶対言わないでよ?」
「は、はぃ……」
「絶対だからね? 言ったら、知らないから」
「はい……」
「そ、それと! これは、忘れ物取りに来たついでにしんどー君にお願いされたから取りに来ただけだから! 決して、匂い嗅いでたとかじゃないから!!」
「はい」
「わかった!?」
「……はい」
語るに落ちるとはこのこと。匂いを嗅いでいたらしい。
顔を赤く染めたギャルは、それだけ言うと足早に教室を出て行ってしまった。
あまりに勢いに、はい、しか喋ることができませんでした。
彼女の圧もそうだが、俺の脳内に過ぎったのは、ノートの一文。
──やっぱり彼の匂いなしじゃいられない。定期的に嗅がなければ、おかしくなってしまう。だから私は彼のものをこっそりと集めて、エクスタシーを感じている。
「…………」
やっぱり、あなたもノートにあるような行動とるんすね。
エクスタシー感じてたんすか。
まぁ、このくらい? 好きな人の匂いを嗅ぐくらいみんなやってるから。重い感情とは言い難いよね。
……やっぱりちょっとアウトか?
まぁ、いい。
これで三人目。
全員が進藤のことを狙っている。倫理のノートを無くした全員が。偶然にしては、出来過ぎだよな。
このうち誰が俺の持っているノートの持ち主か。
失敗=死。
同級生が死ぬとか本当に勘弁だ。
……最悪、進藤には謝っておこう。南無三。
◆
さて。物事には順序というものがある。
ノートの持ち主を探そうとした時、俺がまず、一番目に情報を集めようとしたのが瀬名さんだ。
なぜなら彼女が状況的に一番、可能性が高いから。
繰り返しにはなるが、Sのイニシャルに合致し、離れて想いを募らせていたことにも合う。
ノートの持ち主は、恐らく非常にデリケートなのでなるべく刺激しないようにしなければならない。
放課後がやってきたわけだが、チャンスはこの時しかない。
基本瀬名さんは、進藤にべったりと一緒にいるため、隙がない。
しかし、放課後になれば、進藤は部活に行く。
瀬名さんは部活にも所属していないため、必然と進藤と離れることになる。
その合間を狙って彼女に声をかけるチャンスなのだ!
だがしかし、運が悪いことに隣の山田くんに声をかけられた。
その間に教室からいなくなっており、姿を見失ってしまったのだ。
慌てて玄関に直行するも彼女の姿はない。
こっそりと下駄箱を見るも、まだローファーが置いてある。帰ってはいないようだ。
もしかしたら、体育館か?
バスケ部に所属する進藤を応援するために行っている可能性もなくはない。
そう淡い期待を込めて体育館に向かったその途中。
「……! ……っ」
どこか遠くから何か悲鳴のようなものが聞こえてきた。
それが気になり、音が聞こえる方向に自然と足を運ぶ。
「……っ、……ひぅ……」
そして近づくにつれてその音がなんなのか鮮明になっていく。
たどり着いた先──空き教室から聞こえてきたのは女の子の泣いた声だ。
何かあったのか心配になり、こっそりと空き教室の中を覗く。
夕暮れに照らされ、小さく肩を震わせいたのは──瀬名さんだった。
探していた人物を予想しない状態で見つけてしまい、戸惑う俺。
よく目を凝らせて周りを見渡せば、昼間、進藤に受け取りを拒否されたタッパーの中身が散らばっていた。
そして泣きながら、散らばった唐揚げ一つ一つを集めてタッパーに入れていた。
「瀬名さん」
「──ッ!」
それを見ていられなくなった俺は、中に入り声をかけた。
突然の登場に驚いたのか、瀬名さんはギョッとしたようにこちらを見た。
「……汐見くん」
「とりあえず、手伝うよ」
「……」
俺は返事を待つよりも先に、散らばっている唐揚げを拾い上げて集めていく。
そして瀬名さんのもつ巨大タッパーへと入れていった。
全て集め終えたころ、教室の窓際に二人でしゃがんでもたれかかった。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
少しの間、無言だった瀬名さんが力なくお礼を言った。それに対して、あたり触りのない言葉を返す。
「……」
「……」
少しだけ続いた無言に時計の針の音だけが妙に耳に聞こえてくる。
……気まずい。
それを瀬名さんも感じ取ったのか、しばらくしてようやく瀬名さんが口を開いた。
「新がね、押しのけた拍子にね。落としちゃったの」
「……進藤が?」
「うん。酷いよね。新のために作ったのに」
瀬名さんは笑っているのに、頬を涙が伝っている。
この惨状を引き起こしたのが進藤だとしたら、到底許し難い。そしてこの場にいないのだとしたら、それを無視して出て行ったことになる。
「唐揚げ好きって言ってから朝から2Kg揚げたのに」
重いよ。色んな意味で重いよ。胃もたれどころじゃないよ。
ツッコミを入れたくなったがおそらく真剣なのでグッと堪えた。
「でも『重い。見てるだけでも気持ち悪い』って言われちゃった」
まぁ、気持ちはわからなくもないけども。この脂の量は。うえっぷ。
「酷くない!? 一生懸命作ったのにその想いが重いなんて……」
「ま、まぁ……そっちの意味じゃない気がするけど……」
「だから私もムキになっちゃって。せっかく作ったから部活前に体力つけてもらおうと思って食べさせようとしたら……こうなっちゃったの」
「…………」
なんとも言い難い。
確かにぶちまけたのは良くなかった。しかし、押し付けもよくはない。
部活前にあんだけ食べたら吐くよ、多分。
目尻から零れ落ちた涙が、床の木目に染み込んでいく。
そして次の瞬間、瀬名さんは笑った。
「──だったら、気持ち悪いって思わなくなるまで作ればいいよね……。頭の中、私が作った唐揚げのことしか考えられなくなるくらい。やめられなくて、止まらなくなるくらい美味しいのを」
「……こ」
変な声が出た。こ、恐いんですけど……!
なんでそうなるの……?
かっぱが作ったえびせんみたいなフレーズ。多分、依存性の何か入れようとしている。もしかしてだけど、普段からこんな感じ?
泣き笑いのその表情に背筋がぞわりと冷える。それに対し、俺は勇気を出した。
「さ、流石にそれはやめた方がいいんじゃない?」
「……?」
きょとん。
じゃないのよ。わかって。そこはわかって!
「何がいけないの?」
「そ、それは……」
「ねぇ、教えて?」
綺麗なはずなのに、どこか狂気を孕んだその瞳はまっすぐと俺を見つめていた。
や、やっちまったか?
誰か助けてくれない?
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