ハンドメイド
蓮村 遼
作ればいいっか!
最近、私はもの作りにハマっている。
きっかけは些細なことだった。
「うーん…。なんかしっくり来るものがないな…」
デパートのアクセサリーショップでイヤリングを探していた。できるだけシンプルでさりげないけど、おしゃれなやつ。具体的に言葉にするのは難しく、ある商品を眺めていたがなかなか理想と合致するものがない。
悩んでいると詩織が戻ってきた。自分のアクセサリーは買えたようだ。
「まだ悩んでる!もう20分くらい経っちゃうよ~」
「ええ~…だって、なんか違うっていうか、これだ!って物がないし。でもせっかく来たからさ、色々悩みたくて」
「決められないってことは、好きなのないんじゃない?その調子で悩んでたら今日終わるよ」
もっともなことを言われたが、なんだか諦めきれない。
今買っても買わなくても、後悔しそうな、そんな気分。
詩織は痺れを切らして言った。
「そんなにドンピシャなのが欲しかったら自分で作ればいいじゃん!ハンドメイドとか、今皆やってるし!」
詩織はそう言うと、手芸店のある階まで私を引っ張っていった。
そこから早かった。
私はすっかりハンドメイドにのめり込み、自分のお気に入りを試行錯誤しながら作ることが楽しくなった。
イヤリング、ネックレス、指輪、ピアス、腕時計、アクセサリー掛け、ポーチ、本棚…。
自作は留まるところを知らず、いつの間には、自宅はハンドメイド作品で溢れてしまった。
「あれ?
久しぶりの詩織とのランチだった。
「あ、そうそう気づいた?生地から選んで染めたんだ~。スカートも作った。洋裁って難しかったけど、慣れたら大丈夫だね」
「…まさか、そこまで自分で作るようになるとはね。もはや職人の領域じゃん」
詩織は呆れていたが、そんなことは気にならなかった。ハンドメイドの楽しさを教えてくれた詩織には感謝している。
「そいえば、うちの直哉のことなんだけどさ、あいつあり得ないの!」
詩織は彼氏の話を始める。こうなるとなかなか止まらない。私はしばらく詩織の
「…ってわけ。あたしも悪いけど、あいつもさ、悪いじゃん!」
「それは彼氏さんが悪いね」
「でしょ?!香耶はわかってくれると思ってた!」
「大変だね~詩織。私の彼氏はそんなことないけど」
詩織がピタッと動きを止める。そして表情は満面の笑みに変わった。
「え、え!!!?いつ?いつ彼氏できたの?!全然教えてくれなかったじゃんおめでとう!」
そういえば、報告を忘れていた。詩織はずっと私に彼氏が出来ないことを気にかけてくれていた。
「ごめんごめん、教えてなかったね。でもつい最近だから、許して?」
「ああ、いや!そんなことどうでもいいよね。とにかくおめでとう!ねね、どんな感じ?」
「どんな感じって…。普通の人だよ?良くいる一般男性って感じ」
「写真、写真は!?同棲してんの?え、早くない!?いつの間にさコノコノ~!!」
詩織は根掘り葉掘り、私の彼氏について聞いてくる。話を聞く姿は私より幸せそうだった。ああ、私はなんて良い友人がいるんだろう。
「ねぇ、会いたい。その彼氏さんに会いたい!このあと予定とかある?」
私は腕時計をちらりと見る。
今は家にいる時間だ。
「ううん、この後は6時15分まで予定入れてないよ。会いに来る?」
「ぃやったー!!香耶の初彼氏だー!!」
周囲で食事をしていた人たちがびっくりしている。中には笑ってくれてる人も。お店の人はやや苦い顔をしていたけど。
私たちはそそくさと店を出て、私の家へと足を向けた。詩織はスキップしてる。
自宅は食事をしていた場所から徒歩20分程度。その間も詩織は私たちの関係について事細かに聞きたがる。私もまんざらではないため、隠すことなく答えた。
朝起きてから寝るまで。何をしてどんなことを話しているのか。
自宅に着き玄関を開けると
「おっじゃまっしまーす!初めまして!香耶の親友の詩織と申します!突然ですが遊びに来ました!!」
詩織はかなりのハイテンションで正樹に話しかける。
「香耶の友達か。よく来たね!さぁ、上がって上がって!」
正樹は笑顔で詩織を迎え入れる。詩織のバッグを持ってあげて、脱ぎっぱなしの靴も揃えてあげる。本当によくできた彼氏だ。
正樹はお茶を入れてくれている。
「ね、香耶。どこでこんなにいい彼氏見つけたのさ!優しそうだしイケメンだし、おまけに家事もできるの?うちの直哉とは大違いじゃん!」
詩織はひそひそと耳元で話す風なジェスチャーをしているが、声量は大きく正樹の耳にも入るくらいだ。
「そんなに特別なことじゃないよ。その気になれば、直哉君だって正樹みたいにできるよ?」
「いーや!あいつはそんなことできないし、第一しないね!それに家事やらせたってろくに米も炊けないから!!」
詩織はむくれる。そんな詩織だが本心は直哉君がそのままで良いと思っているのだ。そうでなければ、そのままにしておく理由がない。
6時15分
6時15分となった。正樹はまだ皿洗いをしている。
遅れてる。私が急な来訪者を連れてきたせいだろうか。
「正樹、時間」
正樹の両肩がびくっと跳ねる。おそるおそる、私の顔を見る。
「ご、ごめん香耶。すぐに夕飯の準備するね」
正樹が作業を加速させる。その時カップが手を逃れ、泡だらけのまま床に落ち、割れた。
「彼氏さん大丈夫!?」
「ご、ごめん!!お気に入りのやつなのに!!」
正樹は半狂乱になりながらカップを片付ける。
詩織が少し引いているのがわかる。
「正樹。そんなに余裕なくやらないで。詩織も怖がるじゃん。私の彼氏はそんなんじゃないよ?」
正樹の動きが止まり、そこからゆっくりとだが卒なく、丁寧に片付け始める。
表情はこわばったままだ。
「正樹、笑顔」
私の呼びかけに、冷や汗を垂らしながら笑顔になる。詩織は青ざめている。
「香耶…?何正樹君に命令してんの?香耶も手伝いなよ」
「いいの、私の彼氏はこういう人だから」
「こういう人だからって…!あんまりじゃん。もっと正樹君を思いやってよ!じゃなきゃ愛想つかされて逃げられちゃうんだからね!」
詩織がうるさく言う。私の親友はこんな風に私に説教なんてしない。
私の理想の親友はこんなんじゃない。
「詩織が教えてくれたんだよ?ないなら作ればいいって」
「は?何言ってんの?」
私はスタンガンの電源を入れる。先端がバチバチなり準備運動を始める。
正樹はその場にうずくまり、詩織はこちらを指さし何かを叫んでいる。
「私には彼氏がいなかった。だから作った。理想の彼氏を。ないなら作ればいいの」
詩織の首筋にスタンガンを当て炸裂させる。詩織は気を失った。
「いないなら、作ればいい。理想の親友も。
ねぇ、詩織。私たち、親友だよね?」
なかなかちょうどいいものって無いですよね。
だったら作ればいいですよ。
私、なんでも作っちゃう派なんで。
ハンドメイド 蓮村 遼 @hasutera
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