第2章 ようこそ、クローバー ③挑戦と失敗-3
2.3.3 悔しさと決意
「じゃあ今日はここまでにしよっか」
リーダーの一声で活動は解散となった。
みんなが片付けを始める中、俺はまだ鏡の前に立ったまま、自分の姿をもう一度見ていた。
……やっぱり駄目だ。
「おつかれー」
誰かが声をかけてきて、俺は反射的に笑って返す。
「おつかれ! またね!」
外に出た瞬間、夜風が顔を撫でた。
メイクを落としていても、まだ頬の奥に熱が残っている。
――まあ、そうだよな。
自分で笑ってごまかした言葉を思い出す。
けど、時間が経つほどに、その軽口が自分を刺してくる。
「厳しいかも」
あの一言が耳にこびりついて離れない。
***
帰り道、駅のホームの窓に映った自分の姿を見て、胸がずきりと痛んだ。
黒髪、地味な顔、猫背気味の立ち姿。
今日、鏡で見たあのちぐはぐな女装姿が重なって、思わず視線をそらした。
スマホを開いてみる。
仲間が撮った写真が共有されていた。
笑顔でピースしている俺。
けどその横に並んだ衣装とウィッグが、どうしようもなく浮いていた。
「……なんだこれ」
唇から小さく声が漏れる。
惨めだ。
情けない。
けど――
同時に強烈な思いが胸の奥で生まれていた。
――もっと綺麗になりたい。
自分でも驚いた。
これまでそんな願いを抱いたことは一度もない。
でも今は、それ以外の言葉じゃ表せなかった。
***
翌朝から、俺は動き出した。
まずは食事。
コンビニで買うのをやめて、自炊に切り替える。
「腹いっぱい」じゃなく「必要な分だけ」。
油っこい弁当を手に取りかけては、ぐっと戻した。
授業の合間には、こっそり大学のジムに通った。
ランニングマシンで汗を流しながら、心の中で何度も繰り返す。
――負けたくない。
あの鏡に映った自分に。
夜はネットで「小顔マッサージ」「ダイエット 食事制限」なんて検索しながら、指で頬や顎を押してみる。
「痛っ……でも効いてるのか?」
半信半疑でも続けた。
数日後、顔を洗ったあと鏡を見てみる。
劇的な変化なんてない。
だけど――
昨日よりほんの少しだけ、輪郭がすっきりして見える気がした。
「……よし」
その小さな違いが、火に油を注ぐように俺を突き動かした。
もう後戻りはできない。
俺は本気で変わり始めていた。
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